一五三 堅脆(六七)

○一五三 堅脆(六七)  〻奇伊反、危也、毛呂之モロシ
慧苑に無し。脆字、目篇に作るは非、今意改す。さて音を奇伊反として居るのは、旁により誤つたのだらうが〈但し、危に引かされた音としても、標記は正しく無い。反切とすればこれでは合音を示さぬし、子音も誤りである。和音を長音化してキイと書いたと見るべきだが、危を開口音の奇で示すのも感心せぬ、合音危はクヰで示す可きだが、當時としては標記の方法を知らなかつたのであるかも知れぬ〉此の字は、肉月篇に色字を書いた字と同じで音はゼイである。さてモロシと云ふ語は、萬葉集〈九〇二〉に「水沫ミナワナス微命モロキイノチモ」とあるが、古い假名書は無く、石山寺藏大般若經音義中卷に「危脆 下清歳反、易斷也、倭言母呂之」とあり、新撰字鏡に脆字を毛呂之と訓んで居る。ロの假名不詳。