2007-12-01から1ヶ月間の記事一覧

七七 淤泥(二三)

○七七 淤泥(二三) 上音於、訓泥也、泥音乃、訓淤也、倭云比地乃古{ヒヂノコ} 慧苑に無し。泥音乃は、乃がナイダイ、泥はネイデイだから落ちつかぬが、泥に奴禮・乃禮切と云ふやうな音もあるのを思へば、異樣でも無くなる。地は濁音假名である。和名抄は…

七六 圈揣(二三)

○七六 圈揣(二三) 〻正爲㆑摶、又爲㆑×〈妙な字であるが專を篇とし刂を旁とした字が正しい〉徒官反、團音端、訓麻呂加須{マロカス}、又爲〈○こゝ脱文あらう〉 慧苑に無いのみで無く、經文の一一五頁裏下段の邊には斯う云ふ熟字も見當らない。ところが此…

七五 甲冑(二三)

○七五 甲冑(二三) 上又爲㆓鉀字㆒、可夫止{カブト}、下又爲㆓×〈曹の縱の第六七畫の一つ無い形〉字㆒、除救反、兜鍪也、與呂比{ヨロヒ}、鍪音牟、訓與呂比{ヨロヒ} 慧苑に無し。しかし十四卷三五と同樣に、慧苑と大治本とに據つたのだ。ヨロヒは三五…

七四 霧煙(二三)

○七四 霧煙(二三) 上音牟、訓奇利{キリ}、下烟字同、氣夫利{ケブリ}、 慧苑に無し。キリは萬葉集に例多く奇を書くもの七例ある。奇で正しい。肥前風土記に基肄郡の名は霧より出たとあるが、基も奇と同類である。ケブリの語の假名書は萬葉集に無い。(…

七三 肥(二三)

○七三 肥(二三) 音被、訓古由{コユ} 慧苑に無し。訓字二箇あるが一つは衍字なれば省く。西大寺藏金光明最勝王經に沃字を古江と訓み〈大矢博士による〉新撰字鏡〈一ノ一二ウ二〉に肉月篇に看を書いた字を肥也、肉厚重之貌、止〻布又古由と訓み、肉月篇に…

七二 蠡(二二)

○七二 蠡(二二) 音流羅反、貝有延{カヒフエ} 慧苑に無し。此の標出字は説明も出來ぬ形だが、普通の形に改めた。字は螺と同じ字で經文〈一〇八オ上尾一〉に百萬億天螺出㆓妙音聲㆒、百萬億天鼓出㆓大音聲㆒とある螺である。即ち法螺貝である。反切の所少…

七一 幡干也(二二)

○七一 幡干也(二二) 干、保己{ホコ} 慧苑に無し。己字例により巳に誤つて居る。ホコは記に八千矛神を夜知富許能加微と云つて居る他、紀、萬に例がある。假名は乙類の己で可い。

七〇 扇拂(二二)

○七〇 扇拂(二二) 上安布伎{アフギ}、下波閇良比{ハヘラヒ} 慧苑に見えない。アフギは四段動詞の名詞形だから、此の伎で正しい。第六十五卷にも、安布技とある。今と同樣アフギで可からう。新撰字鏡に扇、阿□木とあるが中間のフ字は不明である。和名抄…

六九 惜悋(二一)

○六九 惜悋(二一) 上乎之牟{ヲシム}、下夜比左之{ヤヒサシ} 慧苑に無し。悋字、旁をメの下に厷を書いた字に作つて居るが、俗字だから改めて引いた。安閑紀元年五月條に、此の熟字を逆にしたものをヲシミテと訓んで居る。ヲシムは萬葉集に今日ダニモコ…

六八 殘缺(二一)

○六八 殘缺(二一) 上傷也、傷壞也、下可氣天{カケテ} 慧苑に見え、蒼頷篇曰殘傷也だけ一致する。カクは前に四一にあり、後にもある。連用形カケテの氣字は下二段のケだから乙類の氣で正しい。

六七 髓腦(二一)

○六七 髓腦(二一) 上須年{スネ}、下奈豆技{ナヅキ} 慧苑に無し。髓は骨髓の事である。今スネと云ふと足の脛の事であるが、古くは脛はハギと云つた。和名抄に髓は須禰、脛は波岐、腦は奈都岐とある。奈豆岐は腦髓即ち今の腦味噌にあたるから、新撰字鏡…

六六 心肺(二一)

○六六 心肺(二一) 〻音辨、訓布〻久〻之 布〻久〻之は今の書方では布久布久之と書く。肺をフクフクシと云つた事は和名抄に見えるが〈石山寺藏天安二年大智度論には肺字を不久不久と訓じ、之字無し、これは恐らく假名點として完全に註記せなかつたのに過ぎ…

六五 吾曹(二一)

○六五 吾曹(二一) 曹又爲㆓×字㆒也、輩也、止毛何良{トモガラ} 慧苑に無し。曹字は縱の二畫を一畫に書いて居る。×は異體である。トモガラの語は佛足石歌に、幸{サキハヒ}ノアツキ止毛加羅參ヰ到{タ}リテ正目{マサメ}ニ見ケム人ノトモシサ、嬉シク…

六四 輟己(二一)

○六四 輟己(二一) 上丁劣反、止也、已也、己止也、己居里反、倭云於乃禮{オノレ}、輟言㆘止㆓却自用㆒廻㆗與人㆖也 慧苑にも大治本にもある。兩方により此の註を作つて居るのだが、矛盾もあり誤字もある。其の問題と成るは輟字の下の字だがこれは、經文…

六三 腹胎(二一)

○六三 腹胎(二一) 上複、訓波良{ハラ}、下胎、吐來反、婦孕四日而胎、又一月也 慧苑に無し。ハラの語は神功紀の忍熊王謀反の條の歌に「タマキハル内ノ朝臣{アソ}ガ波邏濃知{ハラヌチ}(腹内)ハ」とあり、此の私記の二十五卷にも波良汙多{ハラワタ…

六二 所儔(二〇)

○六二 所儔(二〇) 〻直由反、類也、一音義云、又作×〈旁は羽/篇は壽〉字、同到反(翳也)、𦿔也、依也、此義當經、故經文云、善知一切靡所儔、又〈大治本或に作〉用㆓疇字㆒直流反、類也、等也、二人爲㆑匹四人爲㆑疇、是也、疇又耕治田也、耕音常、訓田…

六一 誤錯(二〇)

○六一 誤錯(二〇) 二字安夜末覩{アヤマツ}恩 慧苑に無い。經文には迷誤失錯とあり。末字、未と見る他は無いが今意改した〈前にも末氣を未氣と書いて居る例がある〉下の恩字は不詳だが衍字であらう。經文〈九八ウ上一四〉に不㆑隨㆓明導㆒不㆑信㆓調御㆒…

六〇 顧戀(二〇)

○六〇 顧戀(二〇) 上眷也、音故、下利引反、古布{コフ} 慧苑には廣雅曰顧眷也とあるのみ。戀フの假名書は、記の沼河日賣の歌に「アヤニ、ナ古悲キコシ、ヤチホコノ神ノ命」をはじめとして萬葉集にはざらにある。コは甲類を書くから古布で正しい。戀の音…

五九 憎惡(二〇)

○五九 憎惡(二〇) 上音増、訓而久牟{ニクム}、下亦同 慧苑に無い。ニクシと云ふ形容詞は萬葉集一に「紫草{ムラサキ}ノニホヘル妹ヲ爾苦久アラバ」とあり、戲書では二八十一{ニクク}アラナクニがあるが、ニクムは古い假名書が見當らない。

五八 謙(一九)

○五八 謙(一九) 謙音兼、訓由豆流{ユヅル} 慧苑に無い。佛足石歌に「さかのみあと岩にうつし置き敬ひて後の佛に由豆利まつらむ、さゝぎまつらむ」。

五七 翳瞙(一七)

○五七 翳×(一七) 上音亞{エ}、訓弊也、下音莫、訓末氣{マケ}、云目暗也(×は〈旁莫/篇目〉) 目暗也の下に不告勞云々とあるが、これは翳×に關係なき別の語である。翳の音は願經四分律古點に江伊反、承暦三年の金光明最勝王經音義に衣伊反、可九留、と…

五六 蒙惑(一七)

○五六 蒙惑(一七) 上音牟、訓加何布流{カガフル} 慧苑に無し。濁音としての假名何の右旁に宇を記入しありて、カウブルと訓ませるらしいが、宇字の記入は別筆で後人である。カガフルが後にカウブルと成つたから、斯かる記入をしたのだ。さてカガフルは後…

五五 纔(一七)

○五五 纔(一七) 昨來反、暫也、和都可爾{ワヅカニ} 慧苑とは、引用書廣雅の名を擧げるだけの相異である。ワ都カニは二・四三の例から見ればツは濁音に訓まねばならぬ。反切は、ザンの音に慣れて居るから奇異に思はれるが、是れはサイの音を示すのである。

五四 但爲往(一七)

○五四 但爲往(一七) 上唯也、下二字、倭云去末爲耳 慧苑に無い。經文〈八四オ上六〉に但爲㆑往㆓爾所世界㆒とあるもので、其の爾所は「合若干」とあるから、タダソコバクノ世界ニユカムタメニとでも訓む可きであらうが、爲往を去來爲耳と註して居るのは、…

五三 抑縱(一七)

○五三 抑縱(一七) 上倭言於之布須{オシフス}、千音億、縱、由流保之{ユルホシ} 慧苑に無い。縱字は標出語のは從に辵のある形である。千字は何の爲めにあるのか判らぬが或いは上に對する下字であるかも知れぬ。上字は音億、下字は云々とある可きものが…

五二 喉吻(一七)

○五二 喉吻(一七) 下無粉反、口邊也、唇兩邊也、上音呉、訓乃美土{ノミド} 慧苑にも大治本にもある。大體大治本に據つたと思はれるが、反切は慧苑によりしものであり、莫×〈旁は分/篇は木〉反とある大治本に據つたので無い。なほ倭訓は大治本には無い。…

五一 苗稼(一五)

○五一 苗稼(一五) 上妙、訓那閉{ナヘ}、下音家、訓穀實也 慧苑に無し、萬葉集卷十四の歌に「さぬ田の奈倍のむら奈倍に」とあり、ヨロシナベの類のナベは假名では名倍・奈倍・奈戸と書くのだが一字假名としては苗を書いて居る〈例は十例ある〉閉・倍は一…

五〇 簫笛(一五)

○五〇 簫笛(一五) 上音照、訓布潁{フエ}、下音天寂反、七孔也、倭云布延{フエ} 慧苑に無し、「下」字を私記「〻」に作るは「上」に對するとしては妥當で無いから、今意改した。何れもフエだが、用例としては輔曳〈繼體紀二十四年歌謠〉布曳〈繼體紀七…

四九 霜雪(一五)

○四九 霜雪(一五) 上音相、訓之毛{シモ} 慧苑に無し。シモの語は景行紀十八年の歌に「阿佐志毛(朝霜)のみけのさをばし」の句があり、萬葉集には普通の語である。

四八 所拒(一五)

○四八 所拒(一五) 下渠呂反、正宜㆑作㆑×、違也、鳥足着安後延{トリノアシニツクアゴエ} 慧苑に見える。私記は作字を脱したが今補うた。×は慧苑では山篇に巨を書く字だが、私記は止篇に臣を書いて居る。巨が正しい。私記は慧苑の一部に據つたのであり、…