2008-01-01から1年間の記事一覧

瑣言(二)

丘衣 藝文 12(12): 790-794 (1921) 竹取物語に赫映姫が月に向つて物思ひをしてゐると、侍女などが「月のかほ見るはいむこと、」と言つて制した事が見えてゐる。そして小山儀の竹取物語抄には古今醫統と云ふ書を引いて、「小兒に月をゆびざゝしむる事なかれ。…

瑣言

丘衣 藝文 12(7): 405-410 (1921) 文學の研究が作品の文學的價値を研究するにある事をのみ、やかましく云ふ人がある。それも大切には相違ないが、解題的研究と云ふ事が非常に重要な事であるのを忘れてはならぬ。是は極めてじみな又面倒な仕事だが此の研究が…

二 師輔傳の夢物語

師輔傳に 「大かた此の九條殿いとたゞ人におはしまさぬにや。思し召しよる行末の事なども、かなはぬは無くぞ、おはしましける。口惜しかりける事は、いまだいと若くおはしましける時、『夢に朱雀門の前に、左右の足を西東の大宮にさしやりて、北向きにて内裏…

一 業平中將と王侍從との相撲

われ〳〵が大鏡を讀む時には、たゞ何氣無く獨りで讀む時も、教科書として教室で解釋する時でも、概して、事實の穿鑿には觸れないのが普通であるやうであり、たゞ本書の成立年代の考察を試みる時のみ、其の考察に役立ちさうな事項の考察に努力する位の事であ…

大鏡雜考二條

岡田希雄 國語・國文 5(2): 86-91 (1935)

「國語學講習録」に就いて

新刊紹介 岡田希雄 國語・國文 4(7): 89-91 (1934) 昨年〈昭和八年〉の七月二十六日から二十九日へかけての四日間、長野縣松本市で、松本女子師範學校を會場として、信濃教育會東筑摩部會主催の國語學講習會が開催せられ、柳田國男氏、新村出、小倉進平兩博…

近世狂歌史  菅竹浦氏著

江戸時代の文藝として最も多くの鑑賞家と創作家とを持つて居たものは、何といつても俳諧と狂歌とであらう。しかも俳諧は芭蕉を得蕪村を得て、藝術的に高い水準にまで達したのに反し、狂歌は遂に言語遊戲として終始した。今日狂歌が人々から殆ど顧みられなく…

前田侯爵家本三寶繪 池田龜鑑氏解説

源爲憲が冷泉院の女二宮尊子内親王の御爲めに、永觀二年十一月に物して献上した三寶繪また三寶繪詞には、三種の本文が傳存して居る。自ら眼福を得たのでは無いが、諸家の記されたのにより列記すると、其の一は前田侯爵家所藏本にして、寛喜二年庚寅三月十九…

眞福寺善本目録  黒板勝美博士編

名古屋市の眞福寺が内外典國書の古鈔本・古刊本・孤本□の□を夥しく所藏する事に於いて、海内屈指の名刹であるのは、今更らしく云ふまでも無い。「國寶に指定せられたるもの二十八點、又當に國寶に指定せらるべく、もしくは國寶に準ずべきもの殆ど一百點に及…

安田家本假名書論語  安田文庫内 川瀬一馬氏編

假名書論語と云ふのは、單に論語を漢字交り文に延書したと云ふ位のものでは無くて、漢字は殆んど入れない主義で、全部を假名で書いたものを云ふ。斯う云ふ假名書のものは、今日では到底作られさうにも無いけれど、古くは、假名書化する程度には相異があるけ…

柿堂存稿  岡井愼吾博士著

柿堂と云ふは小學の大家文學博士岡井愼吾先生の號である。博士は福井縣の人、明治二十六年四月小學校本科准教員の免状を得て小學校に奉職せられて以來、滿四年後には、「亂脈」を極めて教壇も立つて居ない福井中學校に於ける一年の受難を經て、伊豫の西條、…

新刊紹介

岡田希雄 潁原退藏 國語・國文 6(2): 113-121 (1936)

以上で自分は「玉篇の研究」に就き單に紹介――批判では無い――したので必るが、其れに因み、非禮ではあるが、斯くあらまほしかりきと感ずる事に就いてなほ一言したい。そは、要するに博士の記述は老婆心に缺けて居る傾きがあると云ふ事である。これは本書が學…

先づ内容を云ふと、「玉篇の研究前篇」は(一)玉篇考正篇五章、(二)玉篇考續篇七章より成り、「玉篇の研究後篇」は(一)玉篇逸文内篇と(二)同外篇とより成り、最後に索引として(1)「前篇にて論及せし文字及び重要なる事項の索引」(2)「玉篇逸文索引(…

岡井博士の大著「玉篇の研究」

新刊紹介 岡田希雄 國語・國文 4(5): 90-103 (1934) 漢字の辭書としては、形類、音類、義類の三種類が存するのだが、其の中で形類に屬するもの、即ち所謂部首分類式辭書〈字書と書くの正しいのだが、辭書ですましておく〉としては説文以後如何なるものが出來…

○前號の正誤。

一九七頁十三行「カヨフもとは」は「カヨフもしくは」、二〇二頁九行細註「音を旁」は「頁を旁」、二〇四頁五行「ヨミニキコエタリ」は「ヨシニキコエタリ」、二〇七頁六行細註「申侍べりつ」は「申侍ベリツ」、二〇九頁一行細註「の帖」は「の條」、同二行…

一二

以上で二・三・七・九・一〇の三帖を中心としての名語記の紹介を了へる。忽卒の調査であり、調査は全部にわたつて居るのでは無いから、誤謬も多からうと思ふ。他日機を得れば訂正する所存で居る。筆を擱くに當り、既でに縷述した通りに、本書は、其の純粹の…

一一

前回の拙稿で、語原辭書としての名語記を述べた時に、徳川末までの語原辭書史を略説したく思ひつゝも、頁數の都合で果さなかつたので、今記す事とする。 (一)和語解 十八卷 鎌倉初期の神祇伯仲資王〈貞應元年薨六十八歳〉が撰述した意義分類體語原辭書であ…

一〇

本書所見の鎌倉時代語彙の例示は是れ位で止めて、最後に、民俗、子供の遊び、社會状態などに關する記事を擧げて見る。云ふまでも無く本書の性質として、是れらのものは至つて少いのである。 ○次、小童部〈ノ〉遊戲〈ニ〉、ヒ□クメ〈ト〉イフ事アリ、如何、コ…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(下)

d:id:Okdky:20080713ヨリ続ク。

擬聲語、擬態語にも、今のと異りて珍しく見えるものが多い。 ○ズハエヤ竹ヤノノヱ〳〵トアル〈ト〉イヘルノエ如何、答、ノエハナヲイケ〈ノ〉反、直氣也、ナヲヤク〈ノ〉反〈ハ〉ノユ也〈三帖〉 ノヱ〳〵は此の直氣の解釋によると、眞直である事を意味するら…

○頭ニカヅクヨボシ如何、烏帽子トカケリ……〈七帖〉 此の語九帖ではエボウシとしても擧げて居る。エノミ(榎の實)がヨノミと成つたと同じ轉訛である。 ○夏〈ナド〉クルシガル人〈ノ〉ヨダル〈ヤト〉イヘル如何〈七帖〉 國語辭典は「彌怠」の義として擧げて居…

○問、ムハラコキ如何、答、ムバラ〈ハ〉草也、コキ〈ハ〉クキ〈ヲ〉コキ〈ト〉イヒナセリ、春ムバラヨリタチアガルワカタチ〈ノ〉名也、莖也〈十帖〉 國語辭典に「茨の若枝なりと」とある。 ○次、シルキ道ノムマサグリ如何、コレ〈ハ〉イヅク〈ヲカ〉フムベ…

○人〈ヲ〉コソグル時、ヘコソ〳〵トイヘルヘ如何〈二帖〉 ○次、指南モシハ祇承〈ノ〉義〈ニ〉ヨセテシルベ〈ト〉イヘルベ如何、ホテ〈ヲ〉反セバヘ也、ホテ〈トハ〉物〈ヲ〉點定〈ス〉ル所ニタツ 又旅ノ道〈ヲ〉ユクニ、サガリタル朋友ニミセムトテタツルシ…

○人ノイフ事〈ヲ〉キカズシテ、ツヽラ〈ト〉アリトイヘル如何、コレハツク〳〵ラカノ反〈七帖〉 目の状態に關するツヾラカと云ふ語は靈異記や新撰字鏡に見え、又ツヾラメは世尊寺眞本字鏡、類聚名義抄、字鏡集にも見えるが、ツヽラは見えない。ツヽラカ・ツ…

○次、シコチカラ如何、セイコロ反リテシコ也、ヲノカ勢比〈ニ〉アヒタル程ノチカラ也〈十帖〉 ○次、田舍ニ官物呵責〈ノ〉時、セリ徴符トイフ事アリ、勝徴符トカキアヒタリ、義如何、スグレル反リテスリナリ、スリヲセリトイヒナセル〈ニ〉アタレリ〈十帖〉 ○…

○商人〈カ〉物イレテニナフカチコ如何、陸龍ナルベシ、又カタヽリ籠歟、カタツリ籠歟〈七帖〉 ○物ヌフニカヌフ如何……堅縫也〈七帖〉 ○ヰノシヽノカクナルカルモ如何、橧〈ト〉ツクレリ……本葉ナドヲアツメテ中〈ニ〉イリ〈テ〉フスナル也〈七帖〉 カルモは珍…

○イヌオモノ「イヌ〈ハ〉犬也、オモノ〈ハ〉追物也」〈十帖〉 今日では文字に縋りてイヌオフモノと云つて居るがイヌオイモノと云うた時代もある〈運歩色葉集〉 ○問、下臈ノアラオカナ〈ト〉イヘル何事ニカ如何、コレ〈ハ〉ヲカシノ義也、オモカラナヤノ反歟…

名語記の語原解釋は、本書の出來た時代が時代であるから、既述の通りに、大體學術的價値は乏しいので、語原辭書としての名語記は、歴史的價値を有するのみであると云ふ他は無いのだが、本書中には珍しい言葉が夥しく見えて居る點に本書の大きな價値がある。 …

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(下) : 名語記所見の鎌倉時代語

岡田希雄 國語・國文 5(13): 69-103 (1935)