2009-01-01から1年間の記事一覧

一〇

圓選詞林を解説するには是非拾霞抄を見る可きであり、拾霞抄を見ずして詞林を解説するのは妥當で無い事は判つて居るが、拾霞抄は今見る事できないから、見たいまゝで、圓選詞林を紹介したのである。不充分な點は諒恕せられたい。最後に藤井先生に御禮申し上…

本書を國語辭書として見る時、其の價値は何うか。添假名の無い事は本書の大缺點であるが、しかし、前半が色葉類聚辭書である事は、康永二年頃までゞは、色葉類聚辭書が少くて、現存のものとしては平安朝末の色葉字類抄の一類(世俗字類抄も節用文字も含む)…

圓選詞林の現在の姿は手習手本であるが、轉寫者が尊圓流の名手であつたから、もと〳〵習字手本でも無いものを、わざ〳〵習字手本用として書いたと云ふのではあるまい。書道の大家たる尊圓親王が千代菊に書いて與へられたと云ふ以上、其の時に於いてすでに習…

本書の正しい名は拾霞抄であると云ふ、其れが圓選詞林と變じたのであるが、さう變へたのが尊朝であらせられたか、又は其の後の轉寫者であつたかは今の所では判らない。拾霞抄と云ふ定つた名のあるものを後人が勝手に改めると云ふ事は考へられないから、表紙…

さて斯うして本書の大體の性質は判つたが、本書が殆んど世間に知られて居ないものか何うか、果して尊圓の御著述か何うか、誰か本書の事を述べて居るものが居ないかと思ひ、例の和田英松博士の皇室御撰之研究を檢したところ、はたして本書が尊圓親王の條に見…

さて識語を檢すると〈句讀訓點は今施す〉 康永二年四月廿九日、依㆓千代菊所望㆒染筆了、更不㆑可㆑有㆓外見㆒、況於㆑與㆓他人㆒哉、勿論々、抑此内名所百首題書㆑之、向後可㆔豫參㆓和歌會㆒之條、不㆑及㆓子細㆒歟、別猶令㆓故障㆒者、速可㆓召返㆒者也(…

表册の疊字は右の如くに色葉類聚であるが、裏册は意義分類である。最初の頁は内題も何も無くて第一行より 雅樂寮 頭 助〈權〉 少允 大屬 少屬 玄蕃寮〈同大舍人寮〉 諸陵寮〈同雅樂寮〉 とあり、以下十三丁の裏頁最後の行まで諸省諸寮諸司の名盡しで、其れよ…

本書は袋綴の普通の二册本で、大きさは縱九寸六分に横七寸、表紙は菊唐草の小模樣あるもの、題箋は藍の雲形あるものに、金の切箔や砂子を施し金銀で菊桐の型を押したものだが「圓選詞林表(裏)」と書いてある。表紙も題箋も書寫當時のものと見られる。さて…

六月十三月に、太田全齋の諺苑を見せて頂くため、藤井乙男先生の御宅へ參上したところ、先生は近頃、伊賀の沖森書店の目録により購入せられた由の圓選詞林と云ふ二册の美濃型寫本をお見せ下さつた。一種の辭書であり、奧書によると、尊圓法親王の御撰である…

尊圓法親王の圓選詞林に就いて

岡田希雄 國語・國文 8(11): 19-32