2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

一〇七 齅(三三)

○一〇七 ×(三三) 許救反、俗作嗅字、倭云加久{カグ} ×は鼻篇に臭を書く。慧苑と同文である、下六十七卷にも加久とある。新撰字鏡に加久。クは濁音で可からう。

一〇六 吹(三三)

○一〇六 吹(三三) 昌爲反、訓布叡{フエ} 慧苑には吹、昌僞反とある。フエは十五卷五〇に既述す、叡の假名正し。

一〇五 微笑(三一)

○一〇五 微笑(三一) 下音燒、訓和良布{ワラフ} 慧苑に無し。興福寺本靈異記序に「嗤〈和良不/己止〉」、新撰字鏡に和良布、和良不、安佐和良不。ワラフのワラは笑ふ時の聲である。

一〇四 誕生(三一)

○一〇四 誕生(三一) 上音單、訓麻禰爾{マネニ}、育生也 慧苑にも大治本にもある。慧苑には誕唐亶反、珠叢曰誕育也、賈注國語曰育生也とある、私記には誕育也が脱して居る。大治本は徒亶反、謾也、亦欺也、不實也に作る。この誕生の語は經文〈一五二ウ上…

一〇三 牀蓐(二八)

○一〇三 牀蓐(二八) 上音常、訓由可{ユカ}、下如欲反、薦也、又席也〈○下略〉 慧苑にあり、一部一致する。新撰字鏡〈七ノ一四ウ〉由加、波萬由加。

一〇二 關防(二八)

○一〇二 關防(二八) 〻浮妄反、訓布世久{フセグ} 慧苑に浮亡反とある、私記には反字無し、今慧苑により補ふ。二十七卷九二に擁字をフサグと訓んで居るがフサグとフセグとは似て居るが異る。この防字にあたる國語は妙に種類が多い。此の私記はフセグであ…

一〇一 寛宥心(二八)

○一〇一 寛宥心(二八) 上與㆑×同、苦丸反、弘也、大也遠也、下禹究反、寛也、過也、遺忘也、倭言由留須{ユルス} 慧苑に無く、大治本にあり、倭言と共に殆んど大治本に據る。但し小異あり、大也の也字、私記には無いが、大治本に據り補ふ。過也は大治本に…

一〇〇 汝何所爲(二七)

○一〇〇 汝何所爲(二七) 奈爾世牟止曾{ナニセムトゾ} 慧苑に無し、經文〈一三六オ下尾三〉に汝何所爲作㆓是惡業㆒とある。ナニセムトゾの假名書は無いが、萬葉集に銀モ金モ玉モ奈爾世武爾とある。助辭のトは乙類で止は正しい、曾も正しい。

九九 心懷㆓殘忍㆒(二七)

○九九 心懷㆓殘忍㆒(二七) ‥‥下布都久呂{フツクロ}‥‥ 慧苑にもあるが、私記の方長文である、しかし其れらは無用だから、全く倭訓のみを擧げた。布都久呂は心懷の懷字〈原本旁を徳字の旁に誤る〉の訓であるが、この文の訓としては、オモフとがイダクとか…

九八 其甲隆起(二七)

○九八 其甲隆起(二七) 下二字倭言祖利乃保禮留貌{ソリノボレルカタチ} 慧苑に無し。經文〈一三五オ下四〉に願一切衆生得㆓赤銅甲指㆒其甲隆㆓起清淨鑒徹㆒とあるところだが、其甲以下の讀方は宜しくあるまい、一二と反り讀みする必要は無からう。ともあ…

九七 狐狼(二七)

○九七 狐狼(二七) 上扈反、倭言岐都禰{キツネ}、又狐×〈旁は爰/篇は言〉獸鬼所乘、有㆓三徳㆒狐疑不定也、狼音良、訓似㆑犬、倭言大神{オホカミ}也 慧苑に無し、扈反は反切の下字が落ちたのでは無く、單字で音を示したのだらう、音や訓を示すのに反と…

九六 腸腎肝脯(二七)

○九六 腸腎肝脯(二七) 腸音丈、訓胎和多{ハラワタ}、腎音神、訓牟良斗{ムラド}、肝音干、訓岐毛{キモ}.脯音布、訓肋 慧苑に無し、肉月を六度まで目や日に作つて居る。最後の脯字、經文〈一三四ウ上尾四〉には肺に作る、こゝにも、二十五卷八五の心…

九五 無完粒(二七)

○九五 無完粒(二七) 上金也、粒音立、訓米都飛{イナツビ} 慧苑に無し、經文〈一三三オ上一〉に一切衆生牙齒堅利、食㆓完粒㆒とあるもの。完は韻尾が舌内鼻音だのに、唇内鼻音の金で音註して居るのは注意すべきである(大矢博士が禿氏教授の新寫本を借り…

九四 文理(二七)

○九四 文理(二七) 合文也、又理者云㆓布之{フシ}㆒、又天文地理也 慧苑に無し。經文〈一三二ウ下尾一〉に牙齒の鮮なる事を譬へる文句中に、文理は卍の如しとある。合は文理を二字アハセテである。フシは節理{キメ}の義。フシと云ふ語は伊勢(後に志摩…

九三 踈缺(二七)

○九三踈缺(二七) 上矣呂曾可爾{オロソカニ}、下可久{カク} 慧苑に無し、經文〈一三二ウ下一五〉に願一切衆生得㆓齊平牙齒㆒如㆓佛相好㆒無㆑有㆓踈缺㆒とあるもの、踈はアラクマバラである義、だからオロソカニでは何うあらうか。オロソカの語は靈異記…

九二 擁權(二七)

○九二 擁權(二七) 上布左具{フサグ}、下方便也、功也 慧苑に無し。下の權字は擁字と似た形だが、方便也の訓があるからやはり權字であらう。經文〈一三二ウ上八〉に一切聰達無㆑所㆓壅滯㆒とあるが、擁權と續く例見えず、近所に權字も見えない。若しかす…

九一 木鏘(二六)

○九一 木鏘(二六) 下正爲㆓槍字㆒千羊反、木兩端鋭曰㆑槍也、鏘是鈴聲也、非㆓經旨㆒、槍倭言宇末良{ウマラ} 慧苑大治本の兩方にあり、兩方大體云ふ所は同じであるが、此の私記は大治本に據つたのである。木鏘と云ふ標出語も慧苑は木槍に作り、大治本は…

九〇 渉險(二六)

○九〇 渉險(二六) 上往也、下左何之伎乎{サガシキヲ} 慧苑に無し、經文〈一二七ウ上二〉に駕馭均調渉㆑險とある。サガシキヲユクと訓ませるのであらう。記仁徳段速總別{ハヤブサワケノ}王の條に佐賀志、佐賀斯とある。賀何は濁音假名である。キの假名…

八九 不欬不逆(二五)

○八九 不欬不逆(二五) 欬克代反、欶也、欶蘇豆反、欬逆氣也、倭云牟世〻受{ムセセズ}、不逆者牟可太末受{ムカタマズ}(末未字形不明) 代字を戊に誤るが、慧苑により改む。倭云は二度書いて居るが一方は衍だから除いた、慧苑は不欬のみを註し、大治本…

八八 咽咀(二五)

○八八 咽咀(二五) 上於見反、咽、倭云能美等{ノミド}、咀嚼也、咀才與反、倭言久不{クフ} 慧苑に見える。漢文註は慧苑に殆んど一致する。ノミドは五二に既述した。等の假名は乙類だから、呑ミ處の義としては妥當で無い、美は正し、クラの語は記雄略段…

八七 損敗他形(二五)

○八七 損敗他形(二五) 上滅也、敗沮也、他形者、倭言保可之伎可多知{ホカシキカタチ}、又異形 慧苑に無し。經文〈一二五オ上一三〉に若見㆔衆生損㆓敗他形㆒慈心救㆑之とあるものだが、此の註によると他形は異形の義であるから、ホカシキカタチは、普通…

八六 脯(二五)

○八六 脯(二五) 趺武反、乾肉薄折㆑之曰㆑脯也、大小腸、波良汙多{ハラワタ} 曰字、日字に誤つて居る、今意改した。このところ、脯から曰脯也までは、前條所屬のもので、そこで切れ、大小腸が標出語として大字書せられ、其の倭訓が波長汙多であるべきも…

八五 心腎肝脯(二五)

○八五 心腎肝脯(二五) 心人情也、腎音神、訓牟良斗{ムラド}、肝音干、訓岐毛{キモ} 慧苑に無し、經文〈一二五オ上九〉に心腎肝肺とあるもの、脯の事はすぐ次ぎに云ふ。干を于に作つて居るが意改した。ムラトは二十七卷にも牟良斗とあり、清濁は判りか…

八四 連膚(二五)

○八四 連膚(二五) 連訓安牟{アム}、下波太{ハダ}、音普 慧苑に無し、經文〈一二五オ上七〉に或克㆔來乞㆓連膚頂髮㆒歡喜施與、亦無㆑所㆑吝とあるのだが、連膚の意味を知らない、佩文韻府にも此の語見えない。經文では直ぐ近い所に、〈九行〉厚皮薄皮…

八三 獄囚(二三)

○八三 獄囚(二三) 〻音受、訓人舍{ヒトヤ}也、獄囚也 慧苑に無し、經では一二五オ上七に見える。註の最後の三字は不要であらう。人舍はヒトヤと訓ませるものであり、漢語では無い。ヒトヤは紀古訓、靈異記中卷二十二話訓釋、和名抄、拾遺集卷十九雜戀等…

八二 粒(二四)

○八二 粒(二四) 音立、訓米都非{イナツビ} これは右の一摶一粒の粒字の註だから、單獨の標出語にするのは宜しく無い。さて粒を古くツビと云つて居た事は十五卷四七で説いた。此の米都非は、後に二十七卷にも米都飛とあるがコメツビか、イナツビ〈和名抄…

八一 一摶一粒(二四)

○八一 一摶一粒(二四) 摶又爲㆑×〈車篇に刂を書いて居るが專に立刀を書く可きだ〉同、徒官反、團也、圜也、倭言比刀二岐里{ヒトニギリ} 慧苑に無し、漢文註は二十三卷の七六で言及した。ヒトは神武紀に阿斯毗苫徒鞅餓離能{アシヒトツアガリノ}宮、記の…

八〇 扶疎(二三)

○八〇 扶疎(二三) 上輔虞反、説文扶疏四布也〈○以下廿九字略〉疎于刀之{ウトシ} 慧苑に無く、大治本にあり、一部分其れに據りて居るが、字體に關する事多いので大部省略し、倭訓に關係あるもののみを擧げた。疎疏字等皆足篇にして居るが今意改した。ウト…

七九 救贖(二三)

○七九 救贖(二三) 時燭反、曰出㆑金而贖㆑罪也、倭云阿可布{アガフ} 慧苑に無し、大治本にある、大治本の一部を採つたのである。萬葉集に中臣ノ太{フト}ノリトゴト云ヒハラヘ安賀布命モ誰ガタメニナレ、靈異記興福寺本第七話「贖〈阿可/比天〉」

七八 沒溺(二三)

○七八 沒溺(二三) 上沈也、下音若、訓沈、正爲弱字、倭言之豆牟{シヅム} 慧苑に無い。若はニヤクと云ふ音を示してゐる。シヅムの假名書の古いのは案外にも無い〈シヅムと訓む可き沈字は記の大山守の條神武紀丹生川の條等に見える〉。シヅムとはかなり違…