2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

一三五 摧障(六四)

○一三五 摧障(六四) 上久太久{クダク} 慧苑に無し。經文〈三〇五オ下八〉によれば摧障と續くのでなく、摧㆓障礙山㆒とあり、障礙を山に喩へて居るのだから、摧一字を擧げれば可い筈である、クダクは第二卷一一で述べた。

一三四 涌沸(六三)

○一三四 涌沸(六三) 上勇、下發、訓二同和久{ワク} 慧苑に無し。ワクの語は神代紀一書黄泉の條に膿沸{ウミワキ}とあるが、假名書は古いところには無い。平安朝の假名文に至りて見えるのみである。

一三三 承接(六三)

○一三三 承接(六三) 令㆓仕奉{ツカヘマツラ}㆒也 慧苑に無し。經文〈三〇一オ上九〉に難㆑得㆓奉事㆒、難㆑得㆓親近㆒、難㆑得㆓承接㆒、難㆑可㆓逢値㆒難㆑得㆓共居㆒などとあるもの。承接に仕奉の意味は無いと思ふが、此の註がある以上は、ツカヘマツ…

一三二 市肆(六三)

○一三二 市肆(六三) 上又作㆑市、市音之、訓伊知{イチ}、肆陳也、下音四、訓伊知久良{イチクラ}、謂陳㆑貨鬻㆑物也、鬻 慧苑にもある、一部一致する。市字を巿〈肺字の旁〉に書くは宜くない、別の字である。「下音四」の下字、上に誤るが肆字を指すの…

一三一 軸轄(六二)

○一三一 軸轄(六二) 上文地奇{ヂキ}也、轄音割、訓可利毛{カリモ} 慧苑に無し。經文〈二九六オ下一三〉は、諸乘行とか此乘とか云つて居るのに因み、輪大悲轂、信軸堅忍轄と云ふ風に、例により車による譬喩が現はれて居るのである。(可利毛の次ぎに㽵…

一三〇 豺狼(六〇)

○一三〇 豺狼(六〇) 上仕皆反、似狼、〻似犬也、狼云大神{オホカミ}也 慧苑に無し。私記は大神也の次ぎに豹の説明が十九字あるが、經文〈二八七オ下四〉には烏鷲豺狼とあるのみで豹の事は見えないので何の爲めに豹字の説明して居るかは判らぬ。大神の事…

一二九 捕獵放牧(六〇)

○一二九 捕獵放牧(六〇) 〻莫六反、食也、×〈旁は卜/篇は食〉也、捕取㆑魚也、獵力渉反、訓等何利須{トガリス} 慧苑にあるが關係は無いやうだ。×は旁を人にした字と同じ。私記は捕字を大字に書いて居るが其れは非、小字である可きだ。トガリスは萬葉集…

一二八 醫膜(六〇)

○一二八 醫膜(六〇) 上或本爲㆓翳字㆒、音亞{エ}、訓弊也、下音莫、訓麻氣{マケ}也 慧苑にあるが關係無し。マケは十七卷五七參照。

一二七 臺榭(六〇)

○一二七 臺榭(六〇) 〻辭夜反、臺上起室也、于天奈{ウテナ} 慧苑に無し。ウテナの語は第一卷八に述べた。

一二六 階墀軒檻(六〇)

○一二六 階墀軒檻(六〇) 墀除尼反、階謂㆓登㆑堂之道㆒也、墀謂以㆑丹塗㆑地、即天子丹墀也、又云塗地也、倭言爾波彌知{ニハミチ}、檻蘭也 慧苑にもあり、階墀の註は「墀、直尼反、玉篇曰、階謂登堂之道也、説文曰、墀謂以㆑丹塗㆑地、即天子丹墀也」と…

一二五 窓闥交暎(六〇)

○一二五 窓闥交暎(六〇) 上末土{マド}、闥小室 慧苑に無し。マドは和名抄に見える、萬葉の窓超爾月臨照而{ツキオシテリテ}もマドゴシニと訓む他はあるまい。斯道文庫本願經四分律に嚮字をマドと訓んで居る〈其れについて春日博士の御説が見える、國語…

一二四 漿(五九)

○一二四 漿(五九) 音將、訓古美豆 慧苑に無し。漿字を小字で書いて居るのは誤、美字も承に誤り、別筆で美と訂正してある。コミヅは願經四分律の假名點に粉水反〈反は訓の義〉とあり、令集解職員令〈一四六頁〉にも粉水とある。新撰字鏡に古水、和名抄に「…

一二三 轂輞(五九)

○一二三 轂輞(五九) 上己之岐{コシキ}、下矢{ヤ}也 慧苑に無し。經文〈二八〇オ下二〉に菩薩轉㆓法輪㆒、如㆓佛之所轉㆒、戒轂三昧輞とあるもの、法輪だから車に關した語で譬へたのである。輞は輻とも云ひ、車輪を形成する放射線状の棒状の木にして、…

一二二 却敵(五九)

○一二二 却敵(五九) 矢倉{ヤグラ}也 慧苑に無し。經文〈二八〇オ下一五〉に菩薩正法城、般若以爲㆑牆、慙愧爲㆓深厘㆒、智慧爲㆓却敵㆒とあるもので、正法城と云ふ譬喩の城を守る防禦物の一つが、智慧と云ふ却敵である。却敵は敵をシリゾケルための防禦…

一二一 壍(五九)

○一二一 ×(五九) 美序{ミゾ}(×は塹に三水あるもの) 慧苑に無し。ミゾの語は記紀の須佐之男命の暴状の條に溝又は渠を埋める事を書き、又、神武皇后の御祖父として三嶋湟咋{ミゾクヒ}、三嶋溝橛の名があるが、假名書は無い。萬葉集にも儲溝{マケミゾ…

一二〇 爲牆(五九)

○一二〇 爲牆(五九) 〻可岐{カキ} 慧苑に無し。カキは記に夜弊賀岐〈須佐之男命條〉「久米ノ子ラガ加岐モトニ」〈神武段〉「夜弊能斯婆加岐入リタヽズアリ」〈清寧段歌垣條〉とあり、キの假名正しい。

一一九 曲身低影(五九)

○一一九 曲身低影(五九) 上可〻末利{カヾマリ}、低、可多夫久{カタブク} 慧苑に無し、經文〈二七八ウ下一二〉に菩薩摩訶薩坐㆓道場㆒時、一切世界草木叢林、諸物無情物、皆曲身低影、歸㆓向道場㆒、是爲㆓第四未曾有事㆒とあるもの、カヾマリは自動詞…

一一八 呰辱(五八)

○一一八 呰辱(五八) 上音之、訓岐受{キズ}、下音肉、恥也、 慧音に無し。經文〈二七二オ下一一〉によると、呰はソシリの義の方が可い。たゞ呰は疵に通じるからキズの訓を施したのである。和名抄に「痍、音夷、岐須」。キの假名不詳、東大寺諷誦文稿に「…

一一七 痴㲉(五七)

○一一七 痴×(五七) (上略)卵、旅管反、説文曰、凡物無㆑乳者曰㆓卵生㆒也、或卵壃也、壃境也、界也、倭云鳥比古{トリヒコ} 慧苑にもあるが一致せない。×は卵ノカラの義にして殸の下に卵を書いて居るが、經文〈二七一ウ上尾五〉はの下に卵を書いた字に…

一一六 後悔海無及(五一)

○一一六 後悔海無及(五一) 乃知久伊矣與保須奈{ノチクイオヨボスナ} 慧苑に無し。海字は誤字にして衍字である。ノチクイは後悔に當り、オヨボスナは無㆑及に當り、命令形と成つて居り、禁止の係助詞ナが下に來た形だが、經文〈二四一オ下七〉では汝莫㆓…

一一五 足跟(四八)

○一一五 足跟(四八) 〻各痕反、下久比〻須{クヒヒス} 慧苑にあり、反切一致する。和訓はクビヒスと濁る可きか。新撰字鏡に所見あるが、和名抄ではすでに久比須、俗云、岐比須と成つて居り、クビヒス、クビス、キビスの轉訛の急であつた事を示して居る。…

一一四 胸臆(四八)

○一一四 胸臆(四八) 上音孔、下億、訓並牟禰{ムネ} 慧苑に無し。記の沼河日賣の歌に「アワ雪ノ、ワカヤル牟泥ヲ」とある。孔はクの音を示す。

一一三 唇頸(四八)

○一一三 唇頸(四八) 上口比流{クチビル}、下久鼻{クビ} 慧苑に無し。口比流はクチビル。(現在ではクチビルの語しか無いが、本書六十八卷にクチザキラがあり、和名抄にも見える、其の條參照)比の假名の當否不明。クビは記の三貴子分治の條に御頸珠、…

一一二 煕怡微笑(四八)

○一一二 煕怡微笑(四八) 上許基反、怡與脂反、説文煕悦也、怡和也、容貌和悦也、微小也、笑世鳥反、廻牟{ヱム} 慧苑にあり、大體合ふ。ヱムは記の沼河日賣の歌に朝日ノ惠美サカエキテとある。東大寺諷誦文稿に「咲{ヱマヒ給ヒシ}」。ヱもワラフのワラ…

一一一 從㆓一切智歌羅邏位㆒(四二)

○一一一 從㆓一切智歌羅邏位㆒(四二) 未㆑知㆓其一切智云意㆒、此疏可㆑見、歌邏羅者、此云薄酪、初入㆑胎、如㆓薄酪㆒也、父母赤白精、成㆓酪状㆒也、酪者、己禮利{コレリ} 慧苑に無し。經文一九九頁裏上段に説明が見える。歌羅邏が梵語で、位は漢語で…

一一〇 志心(三八)

○一一〇 志心(三八) 上音子、訓心刺{コヽロザシ}也 慧苑に無し。經文〈一八五オ上尾一〉に與㆑志共惧心竝生とある。心刺は名詞形でココロザシと讀む。コヽロザシは竹取・古今以後には珍しく無いが古い假名書無し。綏靖紀の志尚をミココロザシと訓んで居…

一〇九 蚊蚋虻蠅(三五)

○一〇九 蚊蚋虻蠅(三五) 蚋、如鋭反、小蚊也、蠅又爲×字、餘承反、説文、虫之大腹者也、經爲㆓蚋字㆒上二字加安{カア}、下二字阿牟{アム} 慧苑は蚊蚋二字で出し、大治本は四字で出して居る。漢文註は兩本に據つた。蠅字は異體字だが改めた、×も蠅の異…

一〇八 麁獷(三五)

○一〇八 麁×(三五) 上音祖、訓荒也、下音况、訓荒金{アラガネ}也(×は〈旁廣/篇犬〉) 慧苑に無し、大治本にはあるが、全く異るから引くに及ばぬ。經文〈一六七ウ下尾四〉に不㆓惡口㆒所謂毒害語、麤×語、苦他語、令㆓他瞋恨㆒語云々とあるもので×は荒…