2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

○前號の正誤。

一九七頁十三行「カヨフもとは」は「カヨフもしくは」、二〇二頁九行細註「音を旁」は「頁を旁」、二〇四頁五行「ヨミニキコエタリ」は「ヨシニキコエタリ」、二〇七頁六行細註「申侍べりつ」は「申侍ベリツ」、二〇九頁一行細註「の帖」は「の條」、同二行…

一二

以上で二・三・七・九・一〇の三帖を中心としての名語記の紹介を了へる。忽卒の調査であり、調査は全部にわたつて居るのでは無いから、誤謬も多からうと思ふ。他日機を得れば訂正する所存で居る。筆を擱くに當り、既でに縷述した通りに、本書は、其の純粹の…

一一

前回の拙稿で、語原辭書としての名語記を述べた時に、徳川末までの語原辭書史を略説したく思ひつゝも、頁數の都合で果さなかつたので、今記す事とする。 (一)和語解 十八卷 鎌倉初期の神祇伯仲資王〈貞應元年薨六十八歳〉が撰述した意義分類體語原辭書であ…

一〇

本書所見の鎌倉時代語彙の例示は是れ位で止めて、最後に、民俗、子供の遊び、社會状態などに關する記事を擧げて見る。云ふまでも無く本書の性質として、是れらのものは至つて少いのである。 ○次、小童部〈ノ〉遊戲〈ニ〉、ヒ□クメ〈ト〉イフ事アリ、如何、コ…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(下)

d:id:Okdky:20080713ヨリ続ク。

擬聲語、擬態語にも、今のと異りて珍しく見えるものが多い。 ○ズハエヤ竹ヤノノヱ〳〵トアル〈ト〉イヘルノエ如何、答、ノエハナヲイケ〈ノ〉反、直氣也、ナヲヤク〈ノ〉反〈ハ〉ノユ也〈三帖〉 ノヱ〳〵は此の直氣の解釋によると、眞直である事を意味するら…

○頭ニカヅクヨボシ如何、烏帽子トカケリ……〈七帖〉 此の語九帖ではエボウシとしても擧げて居る。エノミ(榎の實)がヨノミと成つたと同じ轉訛である。 ○夏〈ナド〉クルシガル人〈ノ〉ヨダル〈ヤト〉イヘル如何〈七帖〉 國語辭典は「彌怠」の義として擧げて居…

○問、ムハラコキ如何、答、ムバラ〈ハ〉草也、コキ〈ハ〉クキ〈ヲ〉コキ〈ト〉イヒナセリ、春ムバラヨリタチアガルワカタチ〈ノ〉名也、莖也〈十帖〉 國語辭典に「茨の若枝なりと」とある。 ○次、シルキ道ノムマサグリ如何、コレ〈ハ〉イヅク〈ヲカ〉フムベ…

○人〈ヲ〉コソグル時、ヘコソ〳〵トイヘルヘ如何〈二帖〉 ○次、指南モシハ祇承〈ノ〉義〈ニ〉ヨセテシルベ〈ト〉イヘルベ如何、ホテ〈ヲ〉反セバヘ也、ホテ〈トハ〉物〈ヲ〉點定〈ス〉ル所ニタツ 又旅ノ道〈ヲ〉ユクニ、サガリタル朋友ニミセムトテタツルシ…

○人ノイフ事〈ヲ〉キカズシテ、ツヽラ〈ト〉アリトイヘル如何、コレハツク〳〵ラカノ反〈七帖〉 目の状態に關するツヾラカと云ふ語は靈異記や新撰字鏡に見え、又ツヾラメは世尊寺眞本字鏡、類聚名義抄、字鏡集にも見えるが、ツヽラは見えない。ツヽラカ・ツ…

○次、シコチカラ如何、セイコロ反リテシコ也、ヲノカ勢比〈ニ〉アヒタル程ノチカラ也〈十帖〉 ○次、田舍ニ官物呵責〈ノ〉時、セリ徴符トイフ事アリ、勝徴符トカキアヒタリ、義如何、スグレル反リテスリナリ、スリヲセリトイヒナセル〈ニ〉アタレリ〈十帖〉 ○…

○商人〈カ〉物イレテニナフカチコ如何、陸龍ナルベシ、又カタヽリ籠歟、カタツリ籠歟〈七帖〉 ○物ヌフニカヌフ如何……堅縫也〈七帖〉 ○ヰノシヽノカクナルカルモ如何、橧〈ト〉ツクレリ……本葉ナドヲアツメテ中〈ニ〉イリ〈テ〉フスナル也〈七帖〉 カルモは珍…

○イヌオモノ「イヌ〈ハ〉犬也、オモノ〈ハ〉追物也」〈十帖〉 今日では文字に縋りてイヌオフモノと云つて居るがイヌオイモノと云うた時代もある〈運歩色葉集〉 ○問、下臈ノアラオカナ〈ト〉イヘル何事ニカ如何、コレ〈ハ〉ヲカシノ義也、オモカラナヤノ反歟…

名語記の語原解釋は、本書の出來た時代が時代であるから、既述の通りに、大體學術的價値は乏しいので、語原辭書としての名語記は、歴史的價値を有するのみであると云ふ他は無いのだが、本書中には珍しい言葉が夥しく見えて居る點に本書の大きな價値がある。 …

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(下) : 名語記所見の鎌倉時代語

岡田希雄 國語・國文 5(13): 69-103 (1935)

(前號の誤植其の他の訂正)

九四頁十行の命云は希云、一〇三頁四行の對照は對象、十行の完然は完全、九三頁二行は「此の卷は卷首と卷の中程とは闕けて居るが」、八四頁九行の所は、「此の本の事を話された事もあつたさうだ(但し見せはせられなかつた)」に作る。九七頁三行に「撥音は…

一五

しかも本書は、單に古書であると云ふ點に於いても、六百六十年前の古書であり、著者自筆の天下の孤本であり、金澤文庫に納められて居た由緒正しきものである。しかして、古鈔本の比較的に多い内典や唐土撰出の書とは異り、類例の極めて乏しい、珍しい、特色…

一四

とは云へ、觀點をかへると本書の國語學的價値は又大いなるものがある。 (一) 先づ其の語原解釋の中にも、妥當なものが無いでも無い。 ○タナゴヽロ如何、掌也、手〈ノ〉コ ヽロ〈ヲ〉タナコヽロ〈ト〉イヘル也、手〈ニ〉物〈ヲ〉イヒクハフル時〈ハ〉カナラ…

一三

以上で、名語記の語原解釋の方針や實際を――僅かに二・三・七・九・一〇の五帖によつて――述べたのであるが、讀者はも早大體、本書について批判を下す事も出來るであらう。 こゝで自分は更めて、本書の語原解釋の價値批判を略述して見ると、流石に鎌倉期のもの…

一二

(六) 名語記の語原解釋を觀點を變へて觀察すると、大別して國語即ち字音語ならずと信ぜられるもので説くものと、字音語で説くものとがある、そして其の字音語ならぬ國語で説くものは、名語記の殆んど全部が其れであるのは云ふまでも無い。そこで字音語で説…

一一

以上で名語記の語原解釋の中で最も優勢な通・略・反は一通り述べた譯であるが、此の他の解釋としては音の附加を認めて解するものと、故事傳説により語原を解するものとがある。 (四) 音の附加を認めるものは、其の云ひ方によつて三種に分ち得る。 (イ) …

一〇

(三) 次ぎに音が約{ツヾマ}ると云ふ現象で説明するもの。是れは、名語記の中では最も優勢であり、徳川末期の服部宜の名言通などをも辟易せしめるばかりに濫用せられて居る。術語としては、反{カヘシ}・反音と云ふ風に名詞で云つて居るもの、反{カヘ}…

(二) 音が省略せられると云ふ現象で説明するもの。これには明瞭に「略」と云つて居るものと、其れに似た語を使用して居るものとがある。 (イ) 「略」と云つて居るもの。 ○不審スル詞〈ニ〉ドレゾ〈ト〉イヘルドレ如何、答、イヅレ〈ヲ〉イ〈ヲ〉略シテ、…

自分は今までに、屡〻、名語記は語原解釋の書、語原辭書であると云つたが、其れはもとより常識的な意味で云つたのである。名語記の語原解釋を紹介するに當り、一言斷つて置く。 さて名語記がナ(名)やコトバ(詞)のユヱや、オコリを説く際の方法・方針は、…

名語記の國語學的考察の一つとして、語原解釋に關して述べるに當り、頁數の都合で前稿で記さなかつた事を記したい。其は本書の引用書の事である。 一體某書が引用して居る引用書と云ふものは、場合によつては其の某書の著者の學問の性質を知る尺度とも成り、…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(中) : 名語記の語原解釋の考察

岡田希雄 國語・國文 5(12): 195-224 (1935)

然らば其の經尊は何う云ふ沙門であつたらうか自分は全く知らず、關先生も「史料編纂所で査べて貰つたが、全く判らなかつた」と云はれたのである。他日外部的材料によりて、其の傳記が判明してくるまでには、本書に現はれた經尊の面影をつかむ他は無い譯だが…

本書著述の動機や樣子や時期の事などは、恐らくは序文が存したであらうと想像せられる第一卷が闕けては居るにしても、第二卷の序、第七卷の序、第十卷の實時自筆跋文の三種によりて大體明らかである。今其れらを順々に示さう。先づ第二卷のものは左の如くで…

既述の如く、本書は遺憾乍ら第一帖が、失はれて居るのだが其の内容が何う云ふものであつたかを考へるに、一字名語は第二帖より始まつて居る事から察すると、第一帖は單語の語原の解釋を試みたものでは無くて別な内容のものであつたらしい。しかして、徳川期…

本書の書誌學的な紹介は既に關先生が書誌學八月號の中で三頁餘りにわたりて物して居られるのであり、先生は他日其れを訂正して詳しい解説を物せられる御豫定であられるので、今自分が、其の方面に觸れるのはまことに心苦しい次第であるが事の順序として記す…