2007-11-01から1ヶ月間の記事一覧

四六 沫僞(一五)

○四六 沫僞(一五) 上音末、訓彌豆乃阿和{ミヅノアワ}、下妄也 慧苑に無い。經文〈七四ウ上四〉に「一切五欲悉無情、如㆓水聚沫性虚僞㆒」と續く偈句の語だから、二字を同時に記すのは妥當ではあるまい。水の假名書は武烈紀の瀰逗の他、用例は珍しく無い…

四五 被甲(一五)

○四五 被甲(一五) 上加也、云㆑加㆓於身㆒也、甲、可夫刀{カブト} 慧苑にも被字の解があり、廣雅曰、被加也、謂㆑加㆓之於身㆒也とあるが、甲の説明は無い。さて我が國では、甲字を頭に被るカブトに訓ずるのが普通であるが、其れは誤用であり、甲は胴體…

四四 與敵(一五)

○四四 與敵(一五) 下牟可布{ムカフ}、音着 慧苑には無い。經文〈七四オ下尾六〉に現㆑身等㆑彼而與敵とあるから、敵字を動詞に訓んで居るのである。其のムカフは、向迎と同語ではあるが、ここの用例に丁度當るのは、神武紀のエミシヲ一人、百{モヽ}ナ…

四三 僅(一五)

○四三 僅(一五) 又爲×△字、渠恡反、又渠鎭反、小也、纔能也、倭言和豆可爾{ワツカニ} 慧苑にもあり、少し合ふ。×△は僅の異體字である。ワヅカニは他に序文と十七卷とに例がある。松井博士の國語辭典にワヅカはハツカの轉だとし、ハツカの例として古今集…

四二 臭穢(一五)

○四二 臭穢(一五) 上主、訓久左之{クサシ} 慧苑に無い。新撰字鏡に久作志・久佐志・豆久佐之とある。ツクサシは魚が腐敗して臭氣を放つ場合に云ふ。萬葉集に「穗積の朝臣が腋草を刈れ」とある腋草は腋毛の義に見られて居たが近頃は腋臭の義と解する説が…

四一 缺(一五)

○四一 缺(一五) 决、訓加久{カク}、又爲×字 慧苑に見えない。决は音か義か判りかねる。×字は缺字の異體である。さてカクと云ふ語は後にも三例あり、萬葉集卷四に鹿煑藻闕二毛{カニモカクニモ}とあり、缺に通ずる決字としては决卷毛綾爾恐{カケマクモ…

四〇 邊呪語呪(一四)

○四〇 邊呪語呪(一四) 古經云、鬼神邊地語、佐比豆利{サヒヅリ} 慧苑に見えない。經文〈七〇オ上尾四〉に、衆生が邪教を信じ惡見に住し、衆苦を受けるを見て、菩薩が方便により妙法を説き、悉く眞實諦を解する事を得しむる例の一つとして、誠邊呪語説㆓…

三九 翹棘(一四)

○三九 翹棘(一四) 尅翹音交、訓久波多川{クハタツ}、棘音黒、訓宇末良{ウマラ} 翹棘の二字を續けて擧げて居るのは妥當で無い、經文〈七〇オ上一一〉には或現㆓蹲踞㆒或翹足、或臥㆓草棘及灰上㆒とありて、二字は無關係である。註首に尅字が存するのは…

三八 醫毉(一四)

○三八 醫×(一四) 二同藥師{クスリシ} ×は殹の下に巫を書いた字である、異體字を擧げて居るまでゝある。慧苑には「良醫」として見える。さて藥師は倭訓にてクスリシであらう。クスリは萬葉集五に二度久須利と見え、久須理師の語は佛足石歌に二度見える。…

三七 瑟琴(一四)

○三七 瑟琴(一四) 上音出、訓己刀{コト}、下音嚴、訓己刀{コト} 瑟琴は慧苑には無い。己字兩方共に巳に作つて居るから今訂正して引いた。コトは記紀に許登〈記仁徳段枯野條〉虚等〈應神紀三十一年枯野條〉擧騰〈武烈紀前紀〉莒等〈繼體紀七年九月〉渠…

三六 麁澁(一四)

○三六 麁澁(一四) (十字略)上荒{アラシ}、下之夫之{シブシ}、曾〻呂氣之{ソソロケシ} 「十字略」の所は澁字の字體の説明である。幾分か慧苑に似て居る。「上荒」の荒は麁字の字義を忠實に示したのでは無く、アラシと云ふ和訓を荒字の正訓で示して…

三五 甲冑(一四)

○三五 甲冑(一四) 廣雅曰、冑兜×〈敬の下に金を書く、正しくは敄の下に金である可きだ〉也、×音牟、訓與呂比{ヨロヒ}、或上爲㆓甲冑㆒上又作㆓鉀字㆒、冑除救反、與㆓△○字㆒同、冑兜×也、又冑胤續繼也、與呂比{ヨロヒ}〈○六字略〉(△○は、金篇に由/革…

三四 醜陋(一四)

○三四 醜陋(一四) 下猥也、謂容貌猥惡也、猥可多自氣奈之{カタジケナシ} 貌字の旁を良に作るは非、慧苑は玉篇を引いて居るが倭訓が無いだけで先づ同文である。經文〈六六オ上三〉に見㆓醜陋人㆒とあり前行の見㆓端正人㆒と對して居る。さてカタジケナシ…

三三 橋梁(一四)

○三三 橋梁(一四) 上波之{ハシ}、下宇都波利{ウツバリ} 慧苑音義には無い。ハシは三で既述した。經文〈六五ウ下九〉に當願衆生、廣㆓度一切㆒、猶如㆓橋梁㆒とあるもの、元來梁字は木橋の義であり、それが屋梁の義にも轉じたのだが、經文に橋梁とある…

三二 下裾(一四)

○三二 下裾(一四) 〻記魚反、衣後也、又衣袖也、衣扈衣也、倭云毛{モ}、扈 下裾の語は慧苑には無く、倭言云々以外は全く大治本音義に據つたものである。經文では前後の語から推すと、六十五丁表上段十二行から十四行の間に無ければならぬ筈だが見えない…

三一 鑽燧(一三)

○三一 鑽燧(一三) 上則官反、謂木中取㆑火也、倭云比岐{ヒキ}、下除醉反、謂鏡中取㆑火也、燧正爲㆑×〈隊の下に金を書く〉字、辭醉反、云火母也、倭云火打{ヒウチ}也 此の比岐{ヒキ}・火打{ヒウチ}の事は、「音義私記解説」の結語の中に説いたが、…

三〇 機關(一三)

○三〇 機關(一三) 木人、久〻都{クグツ} 人字、原本には「一生」の二字を上下に合せた字に作る、則天武后制定字の一である。さてこれは經文〈六二オ下尾三〉に機關木人と續く語であり、慧苑も四字續けて擧げて居る。此の私記の如く木人を註文中に書いて…

二九 止(二)

○二九 止(二) 二同、宿也、住也、夜牟{ヤム}、又制也 慧苑には萃止として出て居り、此の私記では「十方東〈○來の誤〉萃止」の註であり乍ら、止字が大きく書かれ居り、しかも楷體の止と草體の止とが書かれて居るから二同〈二字共に同じの義〉と註せられて…

二八 雅(一一)

○二八 雅(一一) 音牙、訓末曾伎{マソキ} これも慧苑には見えない。毗盧遮那品の「一切樂中、恒奏㆓雅音㆒」〈五一ウ上二〉とある雅字の註である。末曾伎はマソキであらう。雅音と續くのだからマソキはマソシと云ふクシキ型形容詞の連體形かも知れぬ〈本…

二七 海蜯(一○)

○二七 海×(一○) 下蒲項反、蛤也、之士美{シジミ}(×は虫篇に奉) 慧苑に比べると反切と蛤也とが一致する、慧苑には字形に關する註が四字ある。此の虫篇に奉を書いた字は蚌と同じ字であつて類聚名義抄はハマグリと訓じて居る。辞書に蜃や蛤と同じとあるか…

二六 杵(一〇)

○二六 杵(一〇) 昌與反、訓岐禰{キネ} 慧苑には金剛杵として擧げ、杵、昌與反とあるだけである。きて杵は、天津彦彦火瓊々杵尊〈神代紀、〉寸付{キヅキ}(風土記出雲郡條に神龜改㆓字杵築㆒とあり、又國引の段に、八穗爾支豆支乃御埼ともある)杵島{…

二五 煎煑(一〇)

○二五 煎煑(一〇) 前予連反、盡也、火乾也、煑之與反、亭也、二伊流曾{ニイルゾ} これも慧苑には見えない。前字は煎字の誤、亭字は説文によるに亨字の誤、亨は烹に通じる。盡也は楊子方言にも煎{ ハ}盡也と見える。ところで二伊流曾はニイルゾと訓む。…

二四 階陛(八)

○二四 階陛(八) 倭云之那{シナ}、上音訓道也、説文陛也、砌且計反、限也、倭云石牒{イシダタミ}、下邊亞{ヘエ}反 此の註、慧苑には無い。華藏世界品の第四偈に「階陛莊嚴具㆓衆寶㆒」とある句の階陛〈三九ウ下二〉の註であらうが、此の八十經第一卷…

二三 焚香(八)

○二三 焚香(八) 上多久{タク} 萬葉集に「多伎木こる鎌倉山の」〈一四〉「海處女いざり多久大のおほほしぐ」〈一七〉などとある。

二二 無暫巳(七)

○二二 無暫巳(七) 〻止也。暫又爲×(斬の下に足を書く)字、之麻良{シマラ} 慧音にも無暫巳はあるが、註は少し違ふ、巳は已と書く可きであるのは云ふ迄も無い。シマラは今のシバラクであるが、此の類の語の假名書を檢するに、萬葉集に 之麻志〈一八〉 之…

二一 示巳(七)

○二一 示巳(七) 〻於乃我{オノガ} たゞ斯くあるのみだが、慧苑音義には無い。恐らくは普賢三昧品の第一偈に示㆓巳往昔菩提行㆒〈三三オ下尾三〉とある示巳の巳字の註らしいが、こゝの巳は巳では誤りである、已{スデニ}か己{オノレ}である可きだが、…

二〇 鬚髻(六)

○二〇 鬚髻(六) 上栗兪反、×毛也、倭云加末智乃比偈{カマチノヒゲ}、又花蘂之本也、髻髮也(×〈旁は頁/篇は片〉) 鬚髻の語は慧苑に見えない。經文にも卷六に此の二字が續く例は無いやうだ。二十九丁裏下八に鬚、三十一丁表下十七に髻があるから、此の…

一九 事善知識(六)

○一九 事善知識(六) 事云㆓仕奉{ツカヘマツル}㆒也、次佛放㆓眉間光㆒ 此の語、慧苑に無し、經文〈二九オ下一一〉に衆生事㆓善知識㆒とある註であるが、次佛放云々は此の註には無關係らしく、二九ウ上尾三行に爾時世尊欲㆑令㆔一切菩薩大衆、得㆓於如來…

一八 階砌(六)

〇一八 階砌(六) 上古諧反、道也、上進也、階也、下且計反、限也、倭云石牒{イシダタミ} これは大治本卷一の註に據つたものにて、「階也」は陛也の誤である。石牒は下の二四にもあるがイシダタミと訓む。九で説明した。

一七 末間錯(六)

○一七 末間錯(六) 末者云㆓須惠{スヱ}㆒下二字交也 慧苑には見えない。經文部來現相品〈二七ウ下一〇〉に、復現㆓十種衆寶末間錯莊嚴樓閣雲㆒とあるもの。須惠は應神記國巣の歌に見え、萬葉にも見え、珍しくない。