本書を國語辭書として見る時、其の價値は何うか。添假名の無い事は本書の大缺點であるが、しかし、前半が色葉類聚辭書である事は、康永二年頃までゞは、色葉類聚辭書が少くて、現存のものとしては平安朝末の色葉字類抄の一類(世俗字類抄も節用文字も含む)、字類抄よりは少し後れるらしいがやはり平安朝末期の常喜院心覺の梵語辭書多羅葉抄、建治元年の語原辭書名語記十帖があるだけで、他に出來た年代は不明だが〈但し鎌/倉末か〉嘉慶二・三年の頃に(圓選詞林の書かれた康永二年よりは四十五六年も後)寫された平他字類抄がみるに過ぎないがために、色葉辭書史の見地から云へば、珍しいと云はなければならぬ。次ぎに本書の組織は、本來から云へば意義分類體で、其の中の疊字の部を色葉分類したものではあらうが、其の色葉分類の部分が本書としては半分を占めて居る點から云へば、色葉辭書と意義分類辭書とが合されたとも見られる。斯う云ふ類のものとしては、古いところでは平他字類抄が、やゝこれに似た組織であり、「大永四年〈甲/申〉十一月吉日(以下切り去りてあり)」とある往來物の快言状がある位のものだから、此の點でも亦注意するに足る。