一四

なほ最後に一言するに、私が Onanie と云ふ言葉を使用するのに對し、Onanie は Selbstbefleckung の義では無いと注意して呉れた人もあるが、成程、此の言葉の語原を聖書に就いて穿鑿すれば Selbstbefleckung の義には成らず、別の行爲と關係あるものであるのは無論であり、私は充分其れを知つて居るのだが、しかし獨逸語としては Onanie が Selbstbefleckung の義で使用せられて居るから、敢て使用したのである事を斷つて置く。
私の此の攷も、例により、豫期以上に、あしびきの山鳥の尾の長々しい冗文となつた。慶以前の古文獻からでも、新しい材料が見つかつたと云ふので無いならば、是れ以上の補攷も書かないで、是れで、切り上げたく思ふ。古典を扱ふ人々が本誌へ投稿して教示をして下さる事を得れば幸甚である。(昭和八年七月十六日稿、後日又補。)