七〇 扇拂(二二)

○七〇 扇拂(二二)  上安布伎アフギ、下波閇良比ハヘラヒ
慧苑に見えない。アフギは四段動詞の名詞形だから、此の伎で正しい。第六十五卷にも、安布技とある。今と同樣アフギで可からう。新撰字鏡扇、阿□木とあるが中間のフ字は不明である。和名抄阿布岐。拂は所謂拂子にして、ハヘラヒは和名抄波閇波良飛に當り、蠅拂の義で蠅拂の字面は箋註和名抄に據れば支那にも古くより存するのである。我が大舍人寮式にも蠅拂二枚とある。ところで其の和名抄のハヘハラヒを此の音義私記のハヘラヒと比べると、ハヘラヒは――ラヒがハラヒと無關係の語とすれば別だが――轉訛した形である。だが和名抄より古い音義私記に此の轉訛形が見えると云ふのは何うか。自分は私記のハヘラヒはハヘハラヒの誤脱であるまいかと疑ふ。さてラヒのヒは拂ヒのヒとすれば、甲類の比で正しい。ハヘのヘは萬葉集佐手蠅師子サデハヘシコが夢ニシ見ユルとあるが、其のハヘシは延ヘシであり、これにより虫のハヘのヘは乙類の閇で可い事が判る。