七二 蠡(二二)

○七二 蠡(二二)  音流羅反、貝有延カヒフエ
慧苑に無し。此の標出字は説明も出來ぬ形だが、普通の形に改めた。字は螺と同じ字で經文〈一〇八オ上尾一〉百萬億天螺出㆓妙音聲㆒、百萬億天鼓出㆓大音聲㆒とある螺である。即ち法螺貝である。反切の所少し虫損はあるが、流羅反六十七卷にも流良反とある〉である事は判然として居るのに、倭訓倭音の抄出者は皆㐬雖反又は㐬維反に誤つたりして居り、大矢博士の如きは倭音と解して居る。なほ貝布延の貝字私記は具字に誤つて居るが自分が意改したのだ(これも抄出者は氣づかず、やたらに多く抄出して居る正辭は、何故か此の條は抄出せずに居る。何れも具が貝の誤なる事を氣づかなかつたものと見える。)貝を具に誤る例は七十六卷の珠具及び其の註にある。貝布延は即ちカヒブエであり、法螺の事である。カヒブエの語は國語辭典にも見えない。貝の假名書は記允恭段衣通王の歌に、加岐加比(蠣貝)とある。又武卵タケカヒコ日本武尊御子〉建貝兒王と書いて居る(五十八卷參照)。萬葉にも見える。フエの事は十五卷五〇で記述した。延の假名正し、ヤ行のエである。