七三 肥(二三)

○七三 肥(二三)  音被、訓古由コユ
慧苑に無し。訓字二箇あるが一つは衍字なれば省く。西大寺藏金光明最勝王經に沃字を古江と訓み〈大矢博士による〉新撰字鏡〈一ノ一二ウ二〉に肉月篇に看を書いた字を肥也、肉厚重之貌、止〻布又古由と訓み、肉月篇に貴を書いたのを一ノ一三オ六古江多利と訓んで居る。萬葉集春ノニ拔ケル茅花チバナ御食而肥座メシテコエマセも斯く訓む他はあるまい。コの假名は不明である。(肥字の訓にコマと云ふのがあるのは、萬葉集十一肥人額髮結在染木綿コマビトノヒタヒガミユヘルソメユフノの歌で知られて居り、此の訓ににつき、今史料に居られる岩橋小彌太氏が、名義抄の肥字にコマカの訓のある事から論ぜられた事があり、〈歴史と地理〉春日政治博士も「奈良文化」第六號に論ぜられた由〈未見〉であるが、同博士は九州帝大の哲學史學文學論文集所收「西大寺本金光明最勝王經の白點について」の中〈五三頁〉で壤、肥、濃字らにコマヤクコマダツコマヤカニの訓があり、新撰字鏡古萬介志の訓のある事を説いて居られる。なほ「金光明最勝王經註釋一本の古點について」〈文學研究第十四輯〉の中でもコマヤクを説いて居られる由。)〈有坂氏の法則によると甲の古で正しい〉