七四 霧煙(二三)

○七四 霧煙(二三)  上音牟、訓奇利キリ、下烟字同、氣夫利ケブリ
慧苑に無し。キリは萬葉集に例多く奇を書くもの七例ある。奇で正しい。肥前風土記基肄郡の名は霧より出たとあるが、基も奇と同類である。ケブリの語の假名書は萬葉集に無い。(從つて假名の當否は判らぬ、但し萬葉「鹽氣」(シホケ)のケと同じとすれば氣で可い筈だ)紀竟宴歌の國經や時平が仁徳天皇を詠じた歌に氣不利計布理が見え、新撰字鏡〈一ノ二〇ウ七〉和名抄〈四ノ一〇四ウ〉もケブリであり、ケムリの語は室町期に成りても、塵芥ケムタシ天正本節用集ケムリ位である。ケムリの一般化は餘程遲いのである事が判る。ところが此のケムリが東京語でケムに成つてしまふのだが全く言語道斷である。