一三一 軸轄(六二)

○一三一 軸轄(六二)  上文地奇ヂキ也、轄音割、訓可利毛カリモ
慧苑に無し。經文〈二九六オ下一三〉は、諸乘行とか此乘とか云つて居るのに因み、輪大悲轂、信軸堅忍轄と云ふ風に、例により車による譬喩が現はれて居るのである。(可利毛の次ぎに㽵校云々とあるのは、別語であり、軸轄の頂とは關係無し)其の轄字を經文は金篇に作つて居るが轄字と同じである。カリモは新撰字鏡に車乃加利母とあり、和名抄も同訓である。車輪の轂(コシキ、即ちドウ、木製)が、車軸との摩擦により摩損し行くのを防ぐために、コシキの穴(車軸そこを通る)の周圍に當てゝある鐵を云ふ。此の語、箋註和名抄〈三ノ七五ウ〉に、望之は俗にカモと呼んで居ると註して居るが、カモの語は長享和玉篇〈中ノ一七ウ三〉慶長活字玉篇〈上二ウ六、三〇ウ六〉にカモと見える。さて上文地奇ヂキ也とあるは軸の倭音を示すものであるが(入聲尾はクキで寫した)、當時、軸を字音で呼んで居たか何うか判らぬ。新撰字鏡や、和名抄は與己加彌ヨコカミと註して居る。