一三二 市肆(六三)

○一三二 市肆(六三)  上又作㆑市、市音之、訓伊知イチ、肆陳也、下音四、訓伊知久良イチクラ、謂陳㆑貨鬻㆑物也、鬻
慧苑にもある、一部一致する。市字を巿〈肺字の旁〉に書くは宜くない、別の字である。「下音四」の下字、上に誤るが肆字を指すのだから、意を以て下字に改めた。二字ある中の、上の鬻字を二字に引きはなして居るのは誤字であるから、是れも意改した。下の方は念のために同じ字を書き添へたまで、斯う云ふ例は此の音義私記では普通の事である。イチの語は記雄略段の三重の采女失錯の條の皇后の御歌に「大和ノ此ノ高市タケチ小高コダカル伊知ノツカサ」とあるがイチクラの語は古くは見えないで、和名抄に見える。此の私記には六十五卷に今一つ市位イチクラと見える。イチクラは市場の義だから、クラは恐らく天磐座(神代記下、阿麻能以簸矩羅)、塒〈和名抄/止久良〉神庫(垂仁紀八十七年、保玖羅)、鞍(雄略記十三年、ヌバタマノ甲斐ノ黒駒矩羅キセバ)、胡床(雄略記、虻の條に阿具羅ニイマシ〈紀にも見ゆ〉)などのクラと同じ語であらう。(だが後に藏倉の義とも成る)