表册の疊字は右の如くに色葉類聚であるが、裏册は意義分類である。最初の頁は内題も何も無くて第一行より

雅樂寮
 頭   助〈權〉  少允  大屬  少屬
玄蕃寮〈同大舍人寮〉
諸陵寮〈同雅樂寮〉

とあり、以下十三丁の裏頁最後の行まで諸省諸寮諸司の名盡しで、其れよりやはり五行四段にて(語數は今註したるもの)

衣服 六一語 武具 四〇 雜物 一五六 香箱
茶具 二二 錺具 一九 禪院寺司 五八 樂器 二四
舞樂 二〇 平調 一二 壹越調 一八 平調
雙調 神樂名 二六 催馬樂名 四〇 百首  
鞍具 三八 車具 二八

と標目して、語彙を列擧して居るが、卷首の百官が治部省の雅樂寮から始まるのは唐突であるから、よく見ると、表紙の虫損と本文の虫損とが全然合致せない。そこでこゝにかなりの脱文(百官としては、神祇官以下式部省に至る間が落ちて居るのである)のある事が認められる(しかして事實其の通りであるが、その事は後述する)。催馬樂名は其の丁の裏頁第五行第四段まであり、次ぎの丁の表頁は百首の頁であり(こゝに落丁有りとも想はれない)第一行に

百首〈建保三年十月廿四日/公宴 内裏〉

とあり名所百首(現存、類從本)の「春廿首」の題二十と「夏十首」の題八、總計二十八の名所名を掲げて居り、此の丁は以上で全部ふさがつて居るが、夏十首の殘り二題と秋二十首、冬十首、戀二十首、雜二十首の歌枕名七十は全く見えずして、次丁表頁は

蹀     騰」    犛     牛    黄牛    乳牛」   特牛
犢     𤙤     縻」    風    放     縱     鷙」
吼     踊(希云、」の所で行改まる)

と云ふ風に、牛馬牧畜に關係ある語が出て居る。しかして虫損も、連續する所もあり、連續せない所もあるから、ここにも、單に名所百首題の名だけでも二十三行、即ち二丁と三行分の脱落の存する事が認められる。とにかく以上の説明により、本書の表册は色葉分類、裏册は意義分類にして、辭書體である事は云ふまでも無い。