前田家藏傳爲相筆本閑居友を見て

  • 岡田希雄
  • 歴史と國文學 23(4): 11-24 (1940)

前田侯爵家の傳爲相筆閑居友上下二帖が、尊經閣叢刊戊寅歳配本として、本年四月二十日附けで複製せられた。たま〳〵先日藤井乙男先生の御宅へ參上したところ、「見たか」と云つて本を見せて下さつた。私が以前〈昭和五年九月の藝文にて〉閑居友と發心集の關係について述べた事があるのを、御記憶に成つて居られたからである。恩借してかヘり、拜見した。今までに刊行せられた諸本と同じく、まことに有難い複製本であり、池田龜鑑氏の執筆せられた綿密な解説〈五十五頁分〉があり、さらに諸本との校異表〈五十頁分〉も添うて居る。何れも勞作であり、此の解説と校異表とありて、此の貴重なる複製本は、いよ〳〵丸其の價値を増大せしめて居る。さて此の本を見たについて感じた事どもを記して、かねてより請求せられて居る本誌の埋草的原稿とする次第である。池田氏の解説を批判する事もあるが諒恕せられたい。