さて耽羅と云ふ國は、然う云ふ國であつたのである。然らば此の國から生きた虎、又は虎の皮を獻上し、其れとともに、トラの國から來た動物と云ふ意味で、其の虎をもトラと呼ぶに至つたかも知れないと云ふ事は

  • カナリヤ島のカナリヤ
  • カンボヂヤのカボチヤ(南瓜)
  • 交趾のコーチン(雞)
  • タウモロコシ 玉蜀黍
  • 南蠻ナンバンナンバ (この語の意味するものは地方によりて、南蠻黍を意味したり唐辛を意味したりして異つて居る)

と云ふ類の命名法から類推できる事である。我が國の産物でも、杉原(紙)眞桑マグハ(瓜)の如きや、織物類に此の種のものがかなりにある。
さて以上は新村先生の高説を、私が勝手に敷衍祖述させて頂いたものであるが、恐らくは、先生の御考へに悖つて居る事はあるまいと思ふ。しかして私は此の御説に全く兜をぬいでしまひ、私の妄説を讀んで頂いた讀者に對するお詫びとして、先生の高説を御紹介させて頂いた次第なのである。