二五 煎煑(一〇)

○二五 煎煑(一〇)  前予連反、盡也、火乾也、煑之與反、亭也、二伊流曾ニイルゾ
これも慧苑には見えない。前字は煎字の誤、亭字は説文によるに亨字の誤、亨は烹に通じる。盡也は楊子方言にも ハ盡也と見える。ところで二伊流曾はニイルゾと訓む。「二」は萬葉集にニの假名に使用し日本書紀では貳をニの假名として居る〉居り、此の音義私記に於いても比刀二岐重卷二四、一握の義〉の例がある。其のニはニルにして、ニルと云ふ語は宇比地邇神須比智邇神と、埿土煑ウヒヂニ沙土煑スヒヂニとの對比で判るが、萬葉にも「萬代に榮えゆかむと思煎石オモヒニシ「常にもがもな常處女煑手トコヲトメニテとあり、本書六十六卷にも湯爾ユニの語がある。しかしイルの假名書は無いらしい。新撰字鏡伊留伊利自志が見え、和名抄以利毛乃伊利古が見える。ニイルゾのゾは、ウマシ國曾式の珍しくも無い助辭だが、點本、辭書、抄物の訓註には、ナリ式と共に此のゾ式が多い。そして、此のニイルゾは、ゾ式の所見としては最古のものであり、(曾の假名は無論正しい)此の後、成實諭天長點、靈異記興福寺本、地藏十輪經元慶點、斯道文庫藏願經四分律〈國語國文昭和十五年一月號、春日政治博士の論文四三頁參照〉などの例があり、新撰字鏡〈二ノ二六オ一〉にも鹿乃乎止利阿之曾の如き例が見える。室町期の抄物に至りてはむやみに使用せられて居る。石山寺大智度論第一種點煑(イル)