二六 杵(一〇)

○二六 杵(一〇)  昌與反、訓岐禰キネ
慧苑には金剛杵として擧げ、杵、昌與反とあるだけである。きて杵は、天津彦彦火瓊々杵尊神代紀、〉寸付キヅキ風土記出雲郡條神龜改㆓字杵築㆒とあり、又國引の段に、八穗爾支豆支乃御埼ともある)杵島キシマ肥前郡名、和名抄萬葉集仙覺抄所引肥前風土記阿羅禮符縷耆資麼加多愷彼杵ソノキ肥前郡名、和名抄但馬日楢杵タヂマヒナラキ垂仁紀三年記中卷の尾には多遲摩比那良岐と書す〉味瓊杵田ウマシニキタ姓氏録右京神別上中臣習宜朝巨條所見、饒速日尊の孫にて舊事本紀の天孫本紀味饒田命とある〉等の例があり、萬葉集にも遠杵土佐道矣トホキトサヂヲ丹杵火爾之ニキビニシ朝露乃銷易杵壽アサツユノケヤスキイノチなどと杵字をキの假名に使用して居る如く、本來單にキとのみ云つたのだが、其れにネが添ひてキネと成つた。ネの意味は判りかねるが、神名の尾に添うて居るネに準ふ可きものではあるまいか。岐の假名も正しい。さてキネと云ふ語としては、本書の用例の如きは古いものであらう。此の後の用例としては延暦廿三年八月の皇太神宮儀式帳御枳根とあり、新撰字鏡支禰和名抄岐禰とある。火杵ヒキの事は十三卷で説く。