四三 僅(一五)
- ○四三 僅(一五) 又爲×△字、渠恡反、又渠鎭反、小也、纔能也、倭言
和豆可爾 - 慧苑にもあり、少し合ふ。×△は僅の異體字である。ワヅカニは他に序文と十七卷とに例がある。松井博士の國語辭典にワヅカはハツカの轉だとし、ハツカの例として古今集の
「初雁のはつかに聲を聞きしより」
を擧げて居るが〈ハツカニの例ならば、同じ古今戀一に「春日野の雪間を分けておひ出る草のはつかに見えし君かも」
と云ふのがある〉疑問である。萬葉集に波都波都爾
と云ふ語が三例、小端
、端端
と書いてハツハツニと訓んで居るのが一例づゝあるが、(これに似たものに、賀都賀都母
〈記神武多加佐士怒の段〉がある)是れがハツカと關係あるのではあるまいか。ハがワと成るのも不思議では無いが、自分はむしろワヅカとハツカとは別の起原の語であり、ハツカはハツ〳〵より生じたものでは無いかと思ふ。安藤正次氏は「古代國語の研究」〈一八五頁〉で、ハツカニが古今集に見え、平安中期に成ると、ハツカニがワヅカニの形で見えると云つて居られ、そこで、ハツカが轉じてワヅカと成つたと見られ、全く松井博士と同じ意見であるが、文獻所見のものについて云へば此の通り逆である。