五三 抑縱(一七)

○五三 抑縱(一七)  上倭言於之布須オシフス、千音億、縱、由流保之ユルホシ
慧苑に無い。縱字は標出語のは從に辵のある形である。千字は何の爲めにあるのか判らぬが或いは上に對する下字であるかも知れぬ。上字は音億、下字は云々とある可きものが脱字や誤字で斯うも成つたものか。抑字の音は經文卷尾の音註に一致する。オシフスと訓み得る語は、仲哀紀八年の神功皇后神託の條に、 ク天津水影アマツミヅカゲノ㆒押伏而我㆑見國とあるが、假名書は無い。しかしオシの例ならば崇神紀八年條於辭寐羅箇禰オシヒラカネ瀰和能等能渡烏ミワノトノドヲとあり、フスも自動詞は記雄略段「志斯布須登」〈猪伏すと〉萬葉集伊奴時母能道爾布斯弖夜おもひつゝなけき布勢良久他動詞としては神代紀岩戸の條覆槽置于該布西ウケフセと訓んで居る例がある〈尤も布西類聚國史所引本による〉次ぎにユルホシは國語辭典にも見えない語であるが、形容詞であらう。ユルはユルス・ユルム・ユルシ・ユルヤカ・ユル〳〵などのユルと同じであらう。今、ユルブは濁音語であるが、古ぐユルフと云ふ清音語がありて、それがユルホシと云ふ形容詞と成りしものか。〈イキドホル・クルフからイキドホロシ・クルホしの語の生すると同じ事情を想像するのである〉