五四 但爲往(一七)

○五四 但爲往(一七)  上唯也、下二字、倭云去末爲耳
慧苑に無い。經文〈八四オ上六〉但爲㆑往㆓爾所世界㆒とあるもので、其の爾所は「合若干」とあるから、タダソコバクノ世界ニユカムタメニとでも訓む可きであらうが、爲往を去來爲耳と註して居るのは、これを何う訓むかゞ判りかねる。ニの假名としての耳はこれ一つだが、總てを眞假名として訓めばコマヰニであるが、其れでは意味が通ぜない。但しマヰだけは是れが往字に相當する語であると見られる事を思ふと、參來マヰク萬葉に假名書例あり〉參到マヰタル〈マヰイタルの義、佛足石歌に假名書例あり〉參出マヰヅ〈マヰイヅの義、佛足石歌に假名書例あり〉參出來マヰデク〈マヰイデクの義、萬葉に假名書例あり〉マヰル〈マヰ入ル義、假名書例なし〉のマヰであるやうだ。しかしてマヰク・マヰタル・マヰヅ・マヰデク・マヰルのマヰは何れも、ワ行動詞マウの連用語である可く、此の音義のマヰニのマヰは其の連用形が名詞に成つて居るもので、それに助辭ニが添ひてマヰニと成つたものかとも思はれる。マヰは上二段活であるかも知れない。但し「去」字のみは全く理解しかねる。或いは去牟爲耳サラムタメニ(又は去牟爲耳ユカムタメニ)の誤か。