七七 淤泥(二三)

○七七 淤泥(二三)  上音於、訓泥也、泥音乃、訓淤也、倭云比地乃古ヒヂノコ
慧苑に無し。泥音乃は、乃がナイダイ、泥はネイデイだから落ちつかぬが、泥に奴禮・乃禮切と云ふやうな音もあるのを思へば、異樣でも無くなる。地は濁音假名である。和名抄は泥を比知利古と訓んで居り、此の語は三卷本色葉字類抄名義抄等に見えるが、ヒヂノコの語は見えず、國語辭典も採録して居ない(字鏡集〈八ノ一九二八〉ヒチノコの語はあるが、文字が軟字と同じだから、語義は判らぬ)。此の和名抄ヒヂリコ音義私記ヒヂノコとは恐らくは同じものにだらう。埿土煑尊、沙土煑尊の神名の上二字につき于毗尼ウヒチ須毗尼スヒチと自註し、宇比地邇神須比智邇神と書いて居り、前田家本仁徳紀は、十一年の道路亦埿をウヒチニナリヌと訓じて居る。ウ・スの語義は不明だが、ヒヂの語の用例としては充分である。萬葉にも知里比治の語がある。此の假名は是れで可い。ノコのノは之であらう。コは似た用例を求むるに、萬葉麻奈胡愛子地マナゴツチがあり、神功紀忍熊王の亂の歌異佐誤が見える。マサゴ、スナゴも此の例であらう和名抄に沙田をマスダと訓んで居るマスはマサゴのマサと關係あるか〉或ひは粉末の義であるかも知れない。胡子誤粉は甲類の字である。和名抄には古比知の語もあるが、これもヒヂリコと同義だらう。