八六 脯(二五)

○八六 脯(二五)  趺武反、乾肉薄折㆑之曰㆑脯也、大小腸、波良汙多ハラワタ
曰字、日字に誤つて居る、今意改した。このところ、脯から曰脯也までは、前條所屬のもので、そこで切れ、大小腸が標出語として大字書せられ、其の倭訓が波長汙多であるべきものだが、右の如く紛はしい書方に誤られたのだ。經文〈一二五オ上九〉に心腎肝肺、大腸小腸とある其の大腸小腸を大小腸と書いたのだ。和名抄に大腸を波良和太と訓み、小腸には楊氏漢語抄云、保曾和太と云ふ註がある、此のホソワタの訓は養老所撰と云ふ楊氏漢語抄の訓であらう。古くは大腸小腸の同語は別であつたものと見える。ハラの語はすでに二十一卷の訓に述べた。ワタは此の私記二十七卷には胎和多ハラワタとあり、萬葉に美奈能和多、美奈乃和多、三名之綿、彌那綿、蜷腸と云ふ枕詞は珍しく無い。