九二 擁權(二七)

○九二 擁權(二七)  上布左具フサグ、下方便也、功也
慧苑に無し。下の權字は擁字と似た形だが、方便也の訓があるからやはり權字であらう。經文〈一三二ウ上八〉に一切聰達無㆑所㆓壅滯㆒とあるが、擁權と續く例見えず、近所に權字も見えない。若しかすると、擁字の少々變つた形を參考に擧げたのだが、其れが權字にも似て居るので、うかと權字としての註をも加へたのであるかも知れない。擁は遮也、障也などとある。フサグの假名書例は無い。フサクとよく似た言葉にフタクと云ふのがあり、東大寺諷誦文稿にフタキ門、フタキ面と見える。しかしフタグとフサグが同原語であり、タサの音韻變化で二語と成つたのであるか何うかは明言が困難である。又フセ〈法華文句に保曾クとある〉もフサグとやゝ似て居るやうだが、其の起原はともあれ、別語とすべきであらう。フセグは一〇二に見える。