九五 無完粒(二七)

○九五 無完粒(二七)  上金也、粒音立、訓米都飛イナツビ
慧苑に無し、經文〈一三三オ上一〉に一切衆生牙齒堅利、食㆓完粒㆒とあるもの。完は韻尾が舌内鼻音だのに、唇内鼻音の金で音註して居るのは注意すべきである(大矢博士が禿氏教授の新寫本を借りて、倭音を抄出せしものゝ中に、三十三卷に於いて「眼、音今」と抄出し、眼は舌内韻尾にして、今は唇内韻尾なるを以て、「當時ンム甚ダ近クシテ紛レ易カリシヲ徴スベシ」と特記して居られるが、これは私記本文に「眼鑒〈音今訓/照也〉」とあるもので、此の音訓註は眼字に關するものに非ず、鑒字に關するものなるは明かであり、其の鑒字は唇内撥音尾であるから、今字で音を示しても不思議は無い。大矢博士の指摘は千慮の一失である。だが、此の完金の例から、多少の混同のあつた事は認められるのである)。米都飛の事は二十四卷八二參照の事、飛の假名は正しいのであらう。