一一六 後悔海無及(五一)

○一一六 後悔海無及(五一)  乃知久伊矣與保須奈ノチクイオヨボスナ
慧苑に無し。海字は誤字にして衍字である。ノチクイは後悔に當り、オヨボスナは無㆑及に當り、命令形と成つて居り、禁止の係助詞ナが下に來た形だが、經文〈二四一オ下七〉では汝莫㆓於放逸㆒、若放逸者、墮㆓諸惡趣㆒後悔無㆑及とあるのだから、今ならば、放逸スルナカレ、若シ放逸セバ諸惡趣ニ墮チテ、後悔ストモ及ブコトナカラムと讀むべく、從うて、ノチクイオヨボスナでは誤讀と云ふ可きである。オヨブ、オヨボスの語は古く見えず、宇津保に見える。萬葉の百重二物來及毳常念鴨モヽヘニモキシカヌカモトオモヘカモの及はシクと讀む他無く、シクならば記の黄泉比長坂ヨモツヒラサカの條に追斯伎斯とある。オヨボスのヨの假名は不詳である。