一六六 利鋸(七八)

○一六六 利鋸(七八)  居庶反、截㆑物者也、故經云、齒如㆓鐵鋸㆒、倭言乃富岐利ノホキリ
慧苑にも私記にも無い。經文〈三七八オ上一三〉菩提心猶如㆓利鋸㆒とある。富はホだからノホキリである。新撰字鏡には乃保支利の訓が天治本だけでも七つも見えるが、乃不支利の語も一つ見える。但しノフキリがノホキリよりも古い形とは云へまい。延暦皇太神言儀式帳にも乃保岐利とあり、石山寺大智度論にもノホキリとある。和名抄もノホキリ。ところで此のノホキリは、三卷本色葉字類抄や名義抄ではノコキリと成つて居る〈名義抄にはノホキリも見える〉ノホキリのノホは朝鮮語で鋸をtopと云ふのと關係があるのではないかと想像する。トがノと成るのは有り得べき音韻變化であり、ノフがノホと成つたのも首肯でき、ノホがノコと成るのも自然である。