一五

しかも本書は、單に古書であると云ふ點に於いても、六百六十年前の古書であり、著者自筆の天下の孤本であり、金澤文庫に納められて居た由緒正しきものである。しかして、古鈔本の比較的に多い内典や唐土撰出の書とは異り、類例の極めて乏しい、珍しい、特色の豐富な國書である。
本書を國寶に指定して、散佚と是れ以上の破壞とを防ぐ事は、目下の急務ではあるまいか。出來るならば複製本を作つて欲しいものである。
最後に本書中に見える珍しい鎌倉時代語につき言及する。(九月二十三日稿)(以下次號)