2008-07-07から1日間の記事一覧

(前號の誤植其の他の訂正)

九四頁十行の命云は希云、一〇三頁四行の對照は對象、十行の完然は完全、九三頁二行は「此の卷は卷首と卷の中程とは闕けて居るが」、八四頁九行の所は、「此の本の事を話された事もあつたさうだ(但し見せはせられなかつた)」に作る。九七頁三行に「撥音は…

一五

しかも本書は、單に古書であると云ふ點に於いても、六百六十年前の古書であり、著者自筆の天下の孤本であり、金澤文庫に納められて居た由緒正しきものである。しかして、古鈔本の比較的に多い内典や唐土撰出の書とは異り、類例の極めて乏しい、珍しい、特色…

一四

とは云へ、觀點をかへると本書の國語學的價値は又大いなるものがある。 (一) 先づ其の語原解釋の中にも、妥當なものが無いでも無い。 ○タナゴヽロ如何、掌也、手〈ノ〉コ ヽロ〈ヲ〉タナコヽロ〈ト〉イヘル也、手〈ニ〉物〈ヲ〉イヒクハフル時〈ハ〉カナラ…

一三

以上で、名語記の語原解釋の方針や實際を――僅かに二・三・七・九・一〇の五帖によつて――述べたのであるが、讀者はも早大體、本書について批判を下す事も出來るであらう。 こゝで自分は更めて、本書の語原解釋の價値批判を略述して見ると、流石に鎌倉期のもの…

一二

(六) 名語記の語原解釋を觀點を變へて觀察すると、大別して國語即ち字音語ならずと信ぜられるもので説くものと、字音語で説くものとがある、そして其の字音語ならぬ國語で説くものは、名語記の殆んど全部が其れであるのは云ふまでも無い。そこで字音語で説…

一一

以上で名語記の語原解釋の中で最も優勢な通・略・反は一通り述べた譯であるが、此の他の解釋としては音の附加を認めて解するものと、故事傳説により語原を解するものとがある。 (四) 音の附加を認めるものは、其の云ひ方によつて三種に分ち得る。 (イ) …

一〇

(三) 次ぎに音が約{ツヾマ}ると云ふ現象で説明するもの。是れは、名語記の中では最も優勢であり、徳川末期の服部宜の名言通などをも辟易せしめるばかりに濫用せられて居る。術語としては、反{カヘシ}・反音と云ふ風に名詞で云つて居るもの、反{カヘ}…

(二) 音が省略せられると云ふ現象で説明するもの。これには明瞭に「略」と云つて居るものと、其れに似た語を使用して居るものとがある。 (イ) 「略」と云つて居るもの。 ○不審スル詞〈ニ〉ドレゾ〈ト〉イヘルドレ如何、答、イヅレ〈ヲ〉イ〈ヲ〉略シテ、…

自分は今までに、屡〻、名語記は語原解釋の書、語原辭書であると云つたが、其れはもとより常識的な意味で云つたのである。名語記の語原解釋を紹介するに當り、一言斷つて置く。 さて名語記がナ(名)やコトバ(詞)のユヱや、オコリを説く際の方法・方針は、…

名語記の國語學的考察の一つとして、語原解釋に關して述べるに當り、頁數の都合で前稿で記さなかつた事を記したい。其は本書の引用書の事である。 一體某書が引用して居る引用書と云ふものは、場合によつては其の某書の著者の學問の性質を知る尺度とも成り、…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(中) : 名語記の語原解釋の考察

岡田希雄 國語・國文 5(12): 195-224 (1935)