• ○イヌオモノ「イヌ〈ハ〉犬也、オモノ〈ハ〉追物也」〈十帖〉 今日では文字に縋りてイヌオフモノと云つて居るがイヌオイモノと云うた時代もある運歩色葉集〉
  • ○問、下臈ノアラオカナ〈ト〉イヘル何事ニカ如何、コレ〈ハ〉ヲカシノ義也、オモカラナヤノ反歟、カル〴〵シゲナル〈ヲ〉イフ事也〈八帖〉
  • ○ホ□リタル人〈ヲ〉イチヒタリ〈ト〉イヘリ如何、イチヒ〈ハ〉ヨニタチハミ〈ノ〉〈十帖〉ホコリタル人ヲイチヒタリトイヘル如何、ヨニタチハニ〈ノ〉反ハイチヒ也、時ニアヘル人ノ氣色ナルベシ〈七帖〉 二度出て居るが自分の抄録に誤記があるらしくて一致せぬ。イチビルと云ふ四段活用の俗語の語原は知らぬが、語形や語義は此のイチヒタリと似て居ると云ひ得る。
  • ○イコノフ〈ト〉イヘル事如何、イキノフ〈ヲ〉イコノフ〈ト〉イヒナセル歟、息延也〈九帖〉 字鏡集に慰・憩・息を訓んで居る。
  • ○問、父母二親〈ヲ〉オヤトナツク如何、答、オヤハ親也、オモヤカノ反、尊親ヲカネタリ〈ト〉イヘル義、オモヤカニ思ヒアハセラレ侍ベリ、但母〈ハ〉〈ノ〉儀ナシ如何、ソレ〈ハ〉二親ナレ〈バ〉オシコメテ、アシワケザル也〈五帖〉
  • ○次、オゾムダツトイヘル詞如何、オモシロメクノ反〈ハ〉オソム也、タツ〈ハ〉立也〈十帖。オゾムダツに指聲符あり、オムダは下位、他は上位〉
  • ○次、カヘルノウタブクロ如何、蛙ノナクハ哥〈ヲ〉ウタフ心也、ノムド〈ヲ〉フクラメタル〈ガ〉フクロ〈ニ〉ニタレ〈バ〉謌袋トイヘルナラシ〈十帖〉 國語辭典は夫木抄の歌を引いて居る。
  • ○竹ヲクメル器物ニイカイ如何、答……アシカ〈ト〉イヘルコレ歟、但飯掻歟、飯舁歟……〈七帖〉 此のイカイは、竹ヲクメル云々とかアシカとかあるのを見ると、飯を盛る杓子のイヒカヒ(飯匙)とは異る。若しくはイカキ(笊)と關係があるか。イカキは下學集や文明十六年の温故知新書に見える。
  • ○雨ノイ〈ニ〉入テフリテ〈ト〉イヘル詞〈二帖〉
  • ○モヽノ邊ノハレ物ヲバ、イシフト云フ〈二帖、フの條〉
  • ○人〈ノ〉〈ニ〉イタコノアル〈ト〉イヘルコ如何、コロ〈ヲ〉反セバコ也……又コヽヲ反セバコ也、所ヲサスヨシ也、コヽバシサハルナトイヘル義歟〈二帖〉 イタコは痛ミ、痛ムトコロと云ふやうな意味らしい、但しコの義は不詳。
  • アゲ水ナドノハシル〈ヲ〉ハストイヘリ、如何〈三帖〉 國語辭典には太平記の例を引いて居る。噴水の類らしい。
  • ○牛ヲトヾマレ〈ト〉イフ詞ニ、ヲホ〈ト〉イヘル如何、答、ヲソヒヨ〈ノ〉〈ハ〉ヲホトナル、ハヤクナユキソトイヘルイサメ也、ヲソホド〈ノ〉反同〈三帖〉 今日の牛方はオー〳〵と聲をかけて牛を止らせるが、其の古き事が判明して面白い。
  • ○下臈〈ヲ〉ヲレ〈カト〉イヘリ如何、答、ヲレ〈ハ〉ヲノレ也、ヲノ反リテヲ也、レ〈ニ〉合テヲレ〈ト〉ナル也〈三帖〉 此のオレは記の意禮、紀の飫例、枕草子の「おれよ、かやつよ」のオレと同じものであらう。
  • ○クヾマリタルセナカナドヲヲセ〈ト〉ナヅク如何、答、ヲセハヲモサゲ〈ノ〉反、ヲモキ物ヲ、モチヰタル義ナルベシ、ヲモシメ〈ノ〉〈三帖〉 所釋は信ずるに足らないが、ヲセの語、及びクヾマリタルセナカナドの文句が有難い。國語辭典は「をせぐむ」〈宇治拾遺〉「をせなが」〈源氏末摘花〉の形で擧げて居る。
  • ○人〈ニ〉ツカハルヽ〈ヲ〉ヲユ〈ト〉ナヅク如何、答、ヲユ〈ハ〉ヲトヤツ〈ノ〉反、ヲト〈ハ〉甲乙〈ノ〉乙也、ヤツ〈ハ〉ヤツコノ義也〈三帖〉
  • ○人ニシタガフ〈ヲ〉オハ〈ヲ〉マフ〈ト〉イヘリ……〈三帖〉 漢字で書けば尾羽を舞ふか。
  • ○食物ナドヲ、イソギク〈ヲ〉ヲホケタリ〈ト〉イヘル如何、ヲホハヲソホドノ反、ケハ氣也、ヲソガリテイソグ氣ヲ、ヲホケタリトハナヅクルナルベシ〈十帖〉
  • ○オサナキモノヽツネ〈ニ〉ナク〈ヲ〉イヤメトナヅク如何、イ□ヤカマセノ反〈七帖〉
  • ○イトマ〈ノ〉〈ヲ〉イマル〈ト〉イヘル如何〈七帖〉
  • ○イバヤル〈指聲符あり、イヤは上位、ハルは下位、ハは二點〉如何、イキハヤレル〈ノ〉反、ユキハヤレル〈ノ〉〈九帖〉 不明だが、今のイバルと關係がありさうである。ハヤリタツのハヤルにイが添うたか。
  • ○木ノスヱ〈ヲ〉トフウレトナヅク如何……ウレハスヱヲウレ〈ト〉イヒナセル也……〈九帖〉 ウレは萬葉集の古語である。
  • ○馬ヲヲロ〳〵トイヘル義如何、答、藁〈ヲ〉ミセテ、ワラヨ〳〵〈ト〉マヽ〈○イヘルとあるべし〉ラヨ反〈リテ〉ロ也、ワニ合テワロ也、ワロ〳〵トイフガ、ヲロ〳〵トイヒナサレタル歟、又云……〈九帖〉 此の説明によると馬に餌を與へる時の呼聲か。運歩色葉集ヲの條に「焚」をヲロと訓み、「馬牛、定」とある。ヲロが牛馬に關した語であり、「定」は定家假名遣中に見えると云ふ事であらう。但し行阿假名遣(但し語學叢書本)には見えないやうだ。
  • ○ウジサジ〈指聲符あり、ウサは下位、シは二箇とも上位二點〉物モイハスナトイヘル如何、コレハ右也左也ヤラムト存ゼリ、ミギセリ、ヒダリセリ〈ノ〉心歟〈九帖〉
  • アエタク如何、アライキタカケクノ反、アイタク也、又アライキツク也〈九帖〉 アヘグの同義語である。温故知新書に、醫書の訓を引きて喘啜アヘタキスタクと記して居る。