• ○商人〈カ〉物イレテニナフカチコ如何、陸龍ナルベシ、又カタヽリ籠歟、カタツリ籠歟〈七帖〉
  • ○物ヌフニカヌフ如何……堅縫也〈七帖〉
  • ○ヰノシヽノカクナルカルモ如何、橧〈ト〉ツクレリ……本葉ナドヲアツメテ中〈ニ〉イリ〈テ〉フスナル也〈七帖〉 カルモは珍しい語でも無く、又此の解釋も珍しくは無いが、カルモに橧字を當てゝ居るだけで擧げたのである。此の字、字鏡集〈四一〇頁〉にはサカフネ・コシキの二訓がある。
  • ○山〈ニ〉カクヒ如何、木杭ナリ、コクヒ〈ヲ〉カクヒ〈ト〉イヘル也〈七帖〉 國語辭典は物類稱呼によりて、カクヒは木の切株を云ふ土佐の方言として居る。名語記によればコクヒが原形であるやうだ。クヒが添うたものと思はれる。
  • ○ウハカブキ〈ト〉イヘル詞ノカブキ如何……カフ〈ハ〉カサハル、カサヘス〈ノ〉反、シタ〈ハ〉ヨハクテ、カ□ 〈此の字七の形に似て居るがミでも無い、不明〉ノヘス義也、木〈ニ〉准ジテ人〈ノ〉〈ヲモ〉シカイヘル也〈七帖〉 はつきりはせないが、上部が下部に比して大きく重く、爲めに傾くやうな意味であるらしい。國語辭典のウハカブキは後世の用語であるから意味が異る。
  • ○犬ナドノ目ノシロキ〈ヲ〉カシメ〈ト〉イヘリ如何〈七帖〉 國語辭典は名義抄に目篇に魚字を書いたものをカシメと訓んで居るのを擧げて居る。古くはサメと云つた。
  • ○ツカサニカモム如何、掃部トカケリ〈七帖〉 掃部をカモンと訓むのは、平安朝初期の借守カリモリ(其の古形、即ち語原は古語拾遺に據ると蟹守カニモリである)がカンモリと成り、カモリと成り、さてカモンと成つたものであるやうだが〈「古語拾遺の掃守に就いて(龍谷大學論叢昭和七年七月號)、「再び古語拾遺の掃守の訓み方に就いて」(立命館學叢昭和八年九月號)を參照せられたい。因みに、借守をカリモリと讀む事について溝口駒造氏が、誤りであるとせられたので、自分は其の答文を物して、再度の教示を乞うたのであるが、本年七月、御目にかゝつた時には、自分の臆案に賛成して下さつたのであつた。〉其のカモンと成つたものとしての用例では、此の名語記が今の所では最も古いのである。
  • 經營メカシキ〈ヲ〉ソメク〈ト〉イヘリ如何、答、鬩也……又騷〈ヲ〉ソメキ〈ニ〉ツカヘル〈ハ〉同心〈ノ〉義歟〈七帖〉 騷をソメクと云ふは榮花に見える。
  • ○小兒ノ腹病〈ノ〉カタカイ如何〈九帖〉 國語辭典はカタカヒの形であげ本朝醫談を引いて居るが、小兒云々の事は云はぬ。
  • ○下臈ノヤレタル衣裳〈ヲ〉カマツク如何、カマ〈ハ〉カタマタ〈ノ〉反、肩全也、ツク〈ハ〉付也、衣〈ハ〉マヅ肩〈ノ〉ヤルヽヲ、マタクナス〈ハ〉カマ〈ノ〉義ナリケリ〈九帖〉 珍しい言葉である。肩の繼のみを云ふのでは無いやうだが、肩に繼ぎの當つて居る浪人者の繪などが想起せられて興味がある。
  • ○火ノクユホル如何、ケスヤクホトラス〈ノ〉〈九帖〉 クユホルはクスボル、クユルが折衷せられたやうな形であるが、斯う云ふ形もあつたのだ。
  • ○ヱノコ〈ヲ〉ヨブコロ〳〵如何〈九帖〉 國語辭典に一休咄を引いて居る。それは犬を呼ぶのであるがヱノコは子犬である。因みに萬葉集の頃は犬を呼ぶにマと云つた。