• ○人〈ヲ〉コソグル時、ヘコソ〳〵トイヘルヘ如何〈二帖〉
  • ○次、指南モシハ祇承〈ノ〉〈ニ〉ヨセテシルベ〈ト〉イヘルベ如何、ホテ〈ヲ〉反セバヘ也、ホテ〈トハ〉〈ヲ〉點定〈ス〉ル所ニタツ 又旅ノ道〈ヲ〉ユクニ、サガリタル朋友ニミセムトテタツシルシ也、ハケタテ〈ヲ〉反セバホテトナル、ハケタツル習也、又云、ホテ〈ハ〉ホコツヱノ反、桙杖也、又云、ホテ〈ハ〉人ツゲノ反、人告也、コレラミナ、イハレアリテキコユルモノ歟〈二帖〉
  • ○人〈ノ〉心地損ジテ、物ツク〈ヲ〉ハズ〈ト〉イヘリ如何〈三帖。ハスには左旁に指聲符あり、ハは上位に一點、スは下位に二點〉 嘔吐をハスと云ふ事は、國語辭典にも見えないが、名義抄〈二ノ三〇オ七〉高山寺本名義抄〈二八ウ七〉に見え、字鏡集〈一〇七四〉にも見える事である。三ヶ尻氏の「古訓大成」がハスを擧げて「ハクガ正」と註記せられたのは妥當であるか何うかは判らぬ(尤も、自分の住んで居る土地では、花の咲タを咲スと云ふ連中がかなりにあるが、其れとハスとを比較すべきであるか何うかも判らぬ)
  • ○問、クロヘホウ如何、答、色ノクロケレ〈バ〉〈ナリ〉、ヘホウ〈ハ〉フデホトノ反也、コレハキリ〴〵ストイフ虫〈ハ〉フル筆ノトシヘタル〈ガ〉蛬トナルトイヘル本文アル也、蟋蟀トモカケル也、サテフデホト〈ノ〉〈ハ〉ヘホ也、又云、フテハケ〈ノ〉反同ジ、バケモノ〈ヲ〉反セバヘモトナル、クロヘモ〈ヲ〉ホウマヽ〈ト〉イヘル也、繪ナドニカキ〈テ〉愛シアヒタルハ少人ノハダカナル形也、イツクニアル物トモ、オボエ侍ラズ、チヒサコノ國アリトキコユル〈ハ〉コノ事ニヤ、定説シリガタシ、フデハク〈ハ〉反リテヘフトナル、コレハ實義ニヤ〈十帖〉 此のヘホウと云ふ語はイモシリの條にも、子供の囃子詞としてイモシリヤ、ヘホウ、カウカメヤ、ヘホウと見える。ヘホウについての説明は無いが、バケモノと云ふのと似たやうな意味であつたらしく察せられる。
  • ○シヅノメ〈ガ〉ヲヽツムダツミノハ如何〈二帖〉
  • ○人ノ家〈ニ〉モヤハヤトイヘルハヤノハ如何〈二帖〉
  • ○水手ガ船コグイタ〈ヲ〉ハサキ〈ノ〉板トイヘリ、サキ〈ハ〉崎ナルベシ、ハ如何〈二帖〉○人ノハニクゲナリトイヘルハ如何〈二帖〉
  • ○カタナ、ソレナラヌ金物〈ニ〉キズ〈ノ〉ミユル〈ヲ〉ヘノアル〈トテ〉〈ニ〉イヘルヘ如何、ヘ〈ハ〉トカケリ……〈二帖〉 此の漢字は名義抄〈八ノ六九オ〉字鏡集〈一五八八〉にカネノヘと訓まれて居るものだが、國語辭典にはヘもカネノヘも採録しては居ない。
  • ○衣裳ハル時ノハテ如何、コレ〈ハ〉ハリテ也、張手也、木ヲタテヽ張手〈ニ〉モチヰル也〈三帖〉 張板の事か。
  • ○畠〈ニ〉ハサトイヘル所如何、ハサ〈ハ〉フカシヤ、フカシナ、フカサマ〈ノ〉反、畠〈ノ〉ヒマハクボク、フカクホレル也〈三帖〉 畠のヒマ即ち農夫が通行する場所(又水はけ用の場所)を、京都近郊の乙訓ではハダと稱して居る。
  • ○賄賂ヲハユ〈ト〉イヘルハユ如何、ホカヤル〈ノ〉〈三帖〉
  • ○寸法ノナガキヲバハツメリトイフ……又云寸法〈ノ〉〈キヲバ〉ハヤシ〈ト〉イヘリ〈二帖ハセの條〉
  • ○ヨル〈ナド〉ニハカ〈ニ〉〈ノ〉大切ナル時、ヘキシテコヨ〈ト〉イヘルヘキ〈ノ〉心如何、答、ヘキ〈ハ〉ヘキ木也、ヘケ〈トテ〉反セバヘキ〈ト〉ナル、薪ナドツミヲキタルカタハシ〈ヲ〉ヘク心ニアタレリ〈三帖〉 ヘキはヘグ(折)の名詞形か。
  • ○神官〈ニ〉ハヽリ如何、祝也〈七帖〉 ハフリの事は見えない。訛語の方のみを知つて居たものらしい。ヒサ〳〵ラシノ反として居るのは譯が判らぬ。
  • ○ハニク如何、ヒガ反リテハ也、ニク〈ハ〉惡也、ヒガ人〈ノ〉キクミヽ也〈七帖〉
  • ○人ノ身ノハタチ如何、皮也、也、ハタ〈ハ〉皮也、チ〈ハ〉ツキ〈ノ〉反、ハダツキ也〈七帖〉
  • ○衣裳ハラムトテ、庭〈ニ〉タツルハツキ如何、フカツク〈ノ〉〈ハ〉ハツ也、キ〈ハ〉木也、フカクツキタツル義也〈七帖〉 簇張りする時に兩端に立てる棒を云ふらしい。國語辭典は泊木の字をあてゝ居るが説明も簇張の事は云はない。
  • ○鞍ヲカス馬〈ニ〉ノルヲハツセ〈ト〉ナヅク如何〈七帖〉 國語辭典は國房集の用例を引き、運歩色葉集のハダセ(裸馬・裸脊)と同じであるとして居る。ハダセウマの用例は義經記にも見える。
  • ○ハラヘナリトイフバラベ如何〈バベに指聲符あり、共に下位の如し、二點〉答、ハラ〈ハ〉腹也、ヘ〈ハ〉ホテ〈ノ〉反、ハラノホテタルハハラヘノ義也〈七帖〉 今のハラボテ、布袋腹か。
  • ○牛馬〈ヲ〉ハウソ〈ニ〉トル如何、答、喰損〈トモ〉食代〈トモ〉カク歟、ハムシロ〈ノ〉シロ反リテソ也、サテハムソトナル〈七帖〉
  • ○人〈ヲ〉ハヒク如何、答、カタナ〈ノ〉〈ヨリ〉イデクル詞也、ソノ定〈ニ〉〈ノ〉クチ〈ノ〉タチタルヲモ、スコシハビキツレ〈バ〉シヅマル也、齒引也〈七帖〉 ハビクは國語辭典にも見えるが、右のやうな意味のある事を説かない。
  • ○バサラ〈ト〉イヘル詞如何、答、ハヽ場也、庭也、サラ〈ハ〉シナラヤ〈ノ〉〈七帖〉 バサラの用例として注意するに足る。
  • ○ヘスヒ如何、答、コレハマユズミ〈ニ〉トルモノ歟、ヘツヒスミ也、竈墨也〈七帖〉 字鏡集〈一七三四〉に煤字をスヽ、ヘスヒ、カマドノアカと訓んで居り、國語辭典はヘスミ(竈炭)として引き、ススの義であるとして居る。温故知新書には「ヘスヒ〈醫〉」とあるから醫書から引いて居るのである。
  • ヒエトリ上戸〈ト〉イヘル草〈ヲ〉ホロシトナヅク如何〈七帖〉 國語辭典にはヒヨドリジヤウゴ(白英)として擧げて居るが、用例は示さぬ。
  • ○人身ニアルハウクロ如何〈九帖〉 ホクロはハハクソ・ハハクロ〈字鏡集/名義抄〉と云うたが、其のハハクロが、ハウタロと成り(ハハキがハウキと成ると同じ)やがてホクロと成つたものである。
  • ○ホトオト如何、殆也……ホト〳〵トモカケル歟〈九帖〉
  • ○ホテヤク如何、ハレタルヤカケム〈ノ〉反、又云布袋ヤク歟、布袋和尚ノ體相ニアヒニタルヨシ也〈九帖〉 ヤクはツブヤク等のヤクか。
  • ○鍛冶ガモトナルフイカハ如何、答、吹皮也〈九帖〉 今のフイゴ(韛}の原形はフキガハ(吹皮)であり、其れがフイガハ・フイガワと成り、カワがハワキがハウキと成つたと同樣にガウと成りて〈京の革堂も今はコードーフイガウがやがてフイゴと變じたのである。フイカハは國語辭典には落ちて居るが字鏡集〈一六四八〉に見える。名義抄はフキガハ。
  • ○ヒウガシ如何、東也……〈九帖〉 東の語原は日向方ヒムカシ日之方ヒガシか不明だが、とにかく比無賀志があり日本紀竟宴歌〉ヒンガシがあるのだが、斯う云ふヒウガシも存したのである。