さて斯う云ふ本文を有する本書が、平他字類抄より出たと見られる伊呂葉字平它の一類本である事は確かだが、さて其れでは明應本と別本との何れに近いかと云ふと、明應本や別本を見ないで、川瀬氏の読明と寫眞とにより窺ふだけの事だから、殆んど比較の仕様もないのだが大體は別本の方に近いものであるやうだ。即ちイロハ各部の立て方と用字では

明應本 別本 色葉文字
ヰ部 立てず 爲部あり 爲部あり
ヱ部 立つ(注) 立つ 立てず
オ部 立つるものゝ如し 立つるものゝ如し 立てず
レ部 立つ 立てず 立てず
ル部 立つ 它部文字實在せず(但し平部は存するにや) 立てず
イ部
マ部
ヒ部
  • (注 川瀬氏文の二四頁七二行にヱ部を設けずとあるのに二六頁の表では同部が存する事に成つて居る)

の如き異同が存するから、別本に近いと云ひたいのである

次ぎに字數に就きて云ふと、ロ部平が三字、テ部仄が六字と云ふ樣に、明應本や別本の所收字よりも色葉文字の所收字の方が少い場合もありはするが(二六頁の表による)しかし総計で云へば明應本三五三〇字、別本四〇一四字にて、別本の方が四八四字多いに對し、色葉文字は五九九五字にして一九八一字も多いから、チ平部で窺はれるところに據り、別本と色葉文字との間では共通字が多からうと想像せられ、やはり兩本の關係の近い事が認めらるのでは無いかと思ふ。

要するに本書は類本三種の中では最も分量の多いもので後出のものだらうと思ふ。時代などは判らない。