一五八 接我脣吻(六八)

Okdky2008-03-23

○一五八 接我脣吻(六八)  接正可㆑作㆓唼字㆒、與㆓
//d.hatena.ne.jp/images/diary/O/Okdky/2008-03-23.gif" alt="〓{口篇ニ師ノ旁}">×字㆒同、子盍反、入㆑口曰㆑〓{口篇ニ師ノ旁}、倭言須布スフ、脣口也、吻、無粉反、謂㆓脣兩角頭邊㆒也、口左岐良クチサキラ:註文中の吻字、大字にしてあるが妥當で無いから小字に改めた。此の項は慧苑と大治本とにより書いたので、吻以下は慧苑の全文を引いたもの〈但し引書名は省略す〉倭言須布までは大治本の全文を引いたもの、×字は喉字の如く見えるが、誤であり大治本の如く口篇に集を旁とした字である可きだ。此の字は口篇に焦を書いた字と同じである。吸の字は記紀速吸ハヤスヒ門の地名に見えるが、假名書としては播磨風土記賀毛郡修布スフノ里の例がある。或る女が井で水を汲み、吸沒スヒコまれたから、修布と名付けたと云ふので、地名の起原は別として、吸の假名書例とは,成る。斯道文庫本願經四分律に鳴をクチスヒ、興福寺本靈異記序に「嘘・須布與利」第二十八話に「吸・須比」とある。口左岐良はクチサキラであり、和名抄にも見える。前にクチビルの語が二度一一三一四〇に見えたが、クチビルとクチサキラとは場所が異る。脣は口之縁にして即ちクチビルである、和訓栞の言の如く口縁クチヘリの義であらう(尤もクチビルの語の生れた當時縁をへりと云つて居たと云ふのでは無い、其れに似た形であつてもよいのである)。クチサキラは名義抄にクチノサキラともある、クチサキラに相當する吻字は脣兩角頭邊の義にして、クチビルの兩脇の義であるから、サキは先にてクチビルの兩端の義である。ラは接尾語と見られる。和訓栞の言の如く口裂の義とまで見る必要はあるまい。サキは先の義と見る以上、岐の假名で可い。さてクチサキラはクチワキとも云ひ、其のクチワキ(口脇)は枕草子「憎きもの」の段に、醉ひ痴れた男の見苦しい行爲を描寫して「口わきをさへ引きたれて、」とあり、名義抄に「吻 クチサキラ・クチワキ」とある。室町期の塵芥や其れに據つた文明十六年の温故知新書が、口尻の二字をクチワキと讀んで居るのは、目尻メジリ眉尻マユジリの語と相通ずるもので珍しい字面である。