2008-01-01から1年間の記事一覧

(前號の誤植其の他の訂正)

九四頁十行の命云は希云、一〇三頁四行の對照は對象、十行の完然は完全、九三頁二行は「此の卷は卷首と卷の中程とは闕けて居るが」、八四頁九行の所は、「此の本の事を話された事もあつたさうだ(但し見せはせられなかつた)」に作る。九七頁三行に「撥音は…

一五

しかも本書は、單に古書であると云ふ點に於いても、六百六十年前の古書であり、著者自筆の天下の孤本であり、金澤文庫に納められて居た由緒正しきものである。しかして、古鈔本の比較的に多い内典や唐土撰出の書とは異り、類例の極めて乏しい、珍しい、特色…

一四

とは云へ、觀點をかへると本書の國語學的價値は又大いなるものがある。 (一) 先づ其の語原解釋の中にも、妥當なものが無いでも無い。 ○タナゴヽロ如何、掌也、手〈ノ〉コ ヽロ〈ヲ〉タナコヽロ〈ト〉イヘル也、手〈ニ〉物〈ヲ〉イヒクハフル時〈ハ〉カナラ…

一三

以上で、名語記の語原解釋の方針や實際を――僅かに二・三・七・九・一〇の五帖によつて――述べたのであるが、讀者はも早大體、本書について批判を下す事も出來るであらう。 こゝで自分は更めて、本書の語原解釋の價値批判を略述して見ると、流石に鎌倉期のもの…

一二

(六) 名語記の語原解釋を觀點を變へて觀察すると、大別して國語即ち字音語ならずと信ぜられるもので説くものと、字音語で説くものとがある、そして其の字音語ならぬ國語で説くものは、名語記の殆んど全部が其れであるのは云ふまでも無い。そこで字音語で説…

一一

以上で名語記の語原解釋の中で最も優勢な通・略・反は一通り述べた譯であるが、此の他の解釋としては音の附加を認めて解するものと、故事傳説により語原を解するものとがある。 (四) 音の附加を認めるものは、其の云ひ方によつて三種に分ち得る。 (イ) …

一〇

(三) 次ぎに音が約{ツヾマ}ると云ふ現象で説明するもの。是れは、名語記の中では最も優勢であり、徳川末期の服部宜の名言通などをも辟易せしめるばかりに濫用せられて居る。術語としては、反{カヘシ}・反音と云ふ風に名詞で云つて居るもの、反{カヘ}…

(二) 音が省略せられると云ふ現象で説明するもの。これには明瞭に「略」と云つて居るものと、其れに似た語を使用して居るものとがある。 (イ) 「略」と云つて居るもの。 ○不審スル詞〈ニ〉ドレゾ〈ト〉イヘルドレ如何、答、イヅレ〈ヲ〉イ〈ヲ〉略シテ、…

自分は今までに、屡〻、名語記は語原解釋の書、語原辭書であると云つたが、其れはもとより常識的な意味で云つたのである。名語記の語原解釋を紹介するに當り、一言斷つて置く。 さて名語記がナ(名)やコトバ(詞)のユヱや、オコリを説く際の方法・方針は、…

名語記の國語學的考察の一つとして、語原解釋に關して述べるに當り、頁數の都合で前稿で記さなかつた事を記したい。其は本書の引用書の事である。 一體某書が引用して居る引用書と云ふものは、場合によつては其の某書の著者の學問の性質を知る尺度とも成り、…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(中) : 名語記の語原解釋の考察

岡田希雄 國語・國文 5(12): 195-224 (1935)

然らば其の經尊は何う云ふ沙門であつたらうか自分は全く知らず、關先生も「史料編纂所で査べて貰つたが、全く判らなかつた」と云はれたのである。他日外部的材料によりて、其の傳記が判明してくるまでには、本書に現はれた經尊の面影をつかむ他は無い譯だが…

本書著述の動機や樣子や時期の事などは、恐らくは序文が存したであらうと想像せられる第一卷が闕けては居るにしても、第二卷の序、第七卷の序、第十卷の實時自筆跋文の三種によりて大體明らかである。今其れらを順々に示さう。先づ第二卷のものは左の如くで…

既述の如く、本書は遺憾乍ら第一帖が、失はれて居るのだが其の内容が何う云ふものであつたかを考へるに、一字名語は第二帖より始まつて居る事から察すると、第一帖は單語の語原の解釋を試みたものでは無くて別な内容のものであつたらしい。しかして、徳川期…

本書の書誌學的な紹介は既に關先生が書誌學八月號の中で三頁餘りにわたりて物して居られるのであり、先生は他日其れを訂正して詳しい解説を物せられる御豫定であられるので、今自分が、其の方面に觸れるのはまことに心苦しい次第であるが事の順序として記す…

さて本書の發見に至るまでの經路を述べるには其れが今までに如何に待遇せられて居たかを述べなければならぬ。 そも〳〵本書は身延山久遠寺の支院武井坊正行{タケヰバウシヤウギヤウ}院(住職は小松海淨師、久遠寺の執事、紺綬褒章拜受、日露役の名譽の負傷…

徳川期に於ける語原解釋の主なる主義は、通畧延約説と音義説と、擬聲説とであるが、此の中鈴木朗の擬聲説は、今日から云へば最も注意すべきであるが、實際としては最も勢力無く、〈音義説が朗の説より出て居るとの解釋は自分は取らない〉その悉曇の字義字相…

鎌倉期の語原辭書名語記十帖に就いて(上)

岡田希雄 國語・國文 5(11): 81-106 (1935)

〔附記〕

本目録は岡田氏が生前自ら作成しておかれたものを本とし、清水泰、後藤丹治兩氏の御協力を仰いで、編纂した。中に、丘衣生、大藪訓世などの筆名によつて書かれたものも含まれてゐる。なほ初期の第三高等學校嶽水會雜誌所掲のもの及び岡田氏に關係あるかと思…

岡田希雄氏發表論文目録

國語・國文13(4): 82-86 (1943) 題目 發表ノ年次 發表ノ場所 總頁數 俊頼無名抄の著者と其の著述年代(上・下) 大正一〇・六、七 藝文 44 瑣言(上・下) 大正一〇・七、十二 〃 3 類聚名義抄に就いて(一)―(十二) 大正一一・二、四―七、九―十二。大正十二・…

五 賢首の新譯華嚴經音義

賢首の新譯華嚴經音義の事は、前の新譯華嚴經音義私記解説に於いては、極めて簡略に記したに過ぎないが、今やゝ詳しく書いて見る。さて此の音義の事は、新羅の翰林學士崔致遠が、天復四年春(我が延喜四年に當る、賢首歿後百九十二年目)に書いた賢首大師傳…

四 字音假名索引

音義私記使用の一字一音の假名のみを擧げ(一字二音の音假名は無く字訓假名と見る可きものも無い)それの使用せられて居る語の番號を記した。但し五十四の「去末爲耳」は意味不明だから省略し、また大治本の用字も全部除いた。濁音假名は確かなものだけを濁…

三、倭訓索引

右に箋註した新譯華嚴經音義私記所見の倭訓、及び大治本八十經音義所見の倭訓の五十音索引である。假名書のは片假名に改め、下に其の訓に相當する漢字を附し、心刺・大神の類は其のまゝで擧げた。語は或る可く分析的にし、ヒトニギリはニギリにも擧げると云…

一七〇 猫狸(七八)

○一七〇 猫狸(七八) 上又作㆓貓字㆒、亡胡亡包二反、下力甚反、猫捕鼠也、眉也、ニ又漢云野貍、倭言上尼古{ネコ}、下多〻既{タタケ} 慧苑に無し。經文〈三八一ウ上一一〉に善男子譬如㆓猫狸㆒とある。ネコは興福寺本靈異記第卅話に「狸禰己」、新撰字…

一六九 樂絃(七八)

○一六九 樂絃(七八) 又作㆓弦字㆒、奚堅反、所㆔以張㆓弓弩等㆒、倭言都留{ツル}、又乎{ヲ} 慧苑に無し、經文〈三八〇オ下四〉に法樂絃とある。ツルの語は、國語辭典は保元、長門本平家、太平記を引いて居るに過ぎない。しかしユミツルは和名抄に見え…

一六八 罥索(七八)

○一六八 罥索(七八) 上‥‥古犬反、罥係取也、倭言上和那{ワナ} 省略の所は字體に關する六字を省いたのである。慧苑に無し。ワナは記紀の宇陀の高城の條の神武御製に、宇陀能多加紀爾、志藝和奈波留とある。

一六七 鉗鑷(七八)

○一六七鉗鑷(七八) 上宜作鈷字、奇沾反、鈷持也、取㆑物者也、鍛具曰鈷鉗類也、鉗以㆑鐵有㆑所㆓結束㆒也、倭言多波都〻{タハツツ}、下女×反、車綦也、倭言鼻毛艾利{ハナゲカリ}(×は犬篇に葛) 慧苑にもあり、私記は慧苑による。經文〈三七八オ上尾四…

一六六 利鋸(七八)

○一六六 利鋸(七八) 居庶反、截㆑物者也、故經云、齒如㆓鐵鋸㆒、倭言乃富岐利{ノホキリ} 慧苑にも私記にも無い。經文〈三七八オ上一三〉に菩提心猶如㆓利鋸㆒とある。富はホだからノホキリである。新撰字鏡には乃保支利の訓が天治本だけでも七つも見え…

一六五 舟楫(七七)

○一六五 舟楫(七七) ‥‥楫倭言加伊{カイ}、‥‥櫂‥‥倭言加地{カヂ} 慧苑、音義私記にも見えるが私記は慧苑に據つたもので、大治本とは異る。さて此のところ、活字にはありさうも無い字が多いので、字を普通のに改め註も省略した。カイもカヂも同じ物で、…

一六四 傭長(七五)

○一六四 傭長(七五) 上應作㆑×、傭同、恥恭反、字從㆑肉、不㆑從㆑用、故傭非㆓此要㆒也、×者×滿也、‥‥倭言麻利〻加爾{マリリカニ}〈○以下略〉(×は〈旁は庸/篇は月〉) 慧苑にも音義私記にも無し。經文〈三五九ウ下一〉には兩肩平滿雙臂×長とある。‥‥…